ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん…金沢「千成亭」の、特別ランチ

2020年12月14日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
取材の記録を見たら、前の訪問は1995年6月17日だから、20年どころか25年ぶりの訪問だったこちら。いわゆる町の食堂、ローカルな定食屋といったたたずまいで、散策ルートからも外れているから他所者はまず来ないような店である。こぢんまりした間口に、テーブル2つとカウンター5席で満席。創業から40年を超えており、やや薄暗い店の奥のキッチンも、相当使い込まれた年季が入っている。コック服を着た年配の親父さんが調理、割烹着を着たおばちゃんが配膳接客と、ピタリ息があった客さばき。無駄のない、でしゃばらない応対に、ごく自然な居心地のよさも感じる。

店名に「洋風料理」と添えてあるように、料理は洋食系で、揚げ物をメインにオムレツ、ソテー、カレー、ハンバーグなど定番の品が基本。オリジナルとか他所からの人向けのハレの品はなく、質実剛健な品揃えだ。しかもどれもが600〜800円台で、「特別」とあるランチは650円。ふわとろのプレーンオムレツ、エビの歯応えがプツリと絶妙な上げ具合のエビフライに、店の看板メニューの豚うすやきはトマト味にコショウが効いた、懐かしのポークチョップの味。ご主人の経歴と腕前は相当なもののようだが、それを何ら表にしない、自然体の料理なのがまたいい。

ご飯もサラダも大盛りで、周辺で働いている人たちが普段使いするのもよく分かる、素朴さとボリュームである。そしておばちゃんのフレンドリーさも、店の人気の理由のひとつのようだ。来る客来る客に、それぞれの声掛けと近況の話題を振るだけでなく、他所者の自分への接客スタンスも同様。25年前に一度来た話に絡んでは返し、退店ぎわには身体への気遣いを声かけしてくれるなど、一度来ればもう自分の知ったお客として招き入れてくれる。次の訪問は25年ごとは言わず、この店に来るのを目的に金沢を再訪したいものだ。

旅で出会ったローカルごはん…上越・高田「大黒屋」の、謙信勝負飯

2020年12月11日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
このたびの高田訪問では、松平氏による築城以降のネタに終始したが、当地を代表する歴史上偉人といえば、春日山城を居城とした上杉謙信も忘れてはならない。駅前の和食処「大黒屋」には、氏のゆかりの献立があると聞き、街歩きを終えた夜にお邪魔した。

上越の食、特に日本海で上がった海の幸が自慢で、つくりの盛り合わせはホタテはもっちり厚くとろけるよう、タイは皮目が残りコリコリ、身はタンパクでしゃっきり。ヒラメは身がみずみずしくムチムチになめらか、ブリは走りでありながら脂がのりまくりと、なかなかにできる。高田のすぐ北は北前船も寄港した直江津で、海が近い城下町なのを再認識する。

そして、ご当地の味覚として頼んでみた「する天」も、なかなかいける。イカの天ぷらなのだが、生をそのままではなく、一夜干しにした塩スルメを使うのかミソ。塩をして干すことで旨みが凝縮し、さらに揚げて膨らむ、イカの味を最大に出し切る食べ方だ。軽く塩を振っただけの熱々をパキパキ、ビールが進むのでおかわりは地元の蔵の「スキー政宗」に。やや辛口で喉の通りがよく、滑降するが如くスルスルと進んでしまう。

そしてメインはその名も「謙信勝負飯」。武将が戦の際に食べた、湯をかけた飯「湯づけ」にちなみ、だし汁をかけまわしていただく飯ものである。地元では試験の前など、大事な勝負事の前に食べる料理だそうで、勝率9割7分と戦上手だった謙信にあやかっているのだそうだ。米は上越のものを使うほか、のせる具もご当地の食材で、だし汁かけで食べる前にそのままでいただき、ふたつの食べ方を楽しむのも流儀だそう。

大黒屋の勝負飯はそれのみにとどまらず、3種の食べ方でいただく「三段食い」が売りだ。タイにマグロ、イカ、タコ、カニ、穴子、さらに卵焼きが賽の目に切られて散らされ、見た目も彩りも華やか。器によそい、まず1杯目はワサビをのせてそのまま刺身丼でいただき、越後の日本海の幸を堪能する。2杯目はシソやゴマの薬味を散らし、とろろをかけまわして山かけで。戦のスタミナをしっかりつけたら、3杯目は味噌汁をかけまわし、湯漬け風で味わう。味噌汁は酒粕入りで、馬上盃で戦場でも呑んでいた、酒好き謙信の気分になるような。

締めは梅干しをいただき、身を清めるのも流儀で、さっぱり平らげていざ出陣、と気合いが入る。ところでそのまま、薬味で、茶漬けでの三通りが味わえるといえば、とある地の櫃に入れたウナギ料理を思わせる。勝負に勝って天下を獲ったのは、むしろその地のあの方だったような?

旅で出会ったローカルごはん…桑名『MuGicafe』の、きまぐれランチ

2020年07月19日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
京町から城下町筋を渡ったところ、寺町通り商店街のアーケード手前に、間口の狭い洋館風の店構えが周囲の和の風情に異彩を放つ。青いガラス扉から中に入ると一転、土間に面して広い畳座敷が広がり、奥には庭、さらに二階にも客席ありという、規模の大きな和カフェだ。上がり座敷に靴を脱いで入ると、正面には数名のカウンターがあり、畳の広間には丈の低い卓が、余裕を持って並んでいる。木板の天井には裸電球が灯り、温かい雰囲気を醸し出している。

「ムギカフェ」は昭和初期の古民家をリノベーションしたカフェだ。地元の生産者と連携して地産素材を重視、引き立てた料理が人気を博している。おもに地産の小麦「桑名もち小麦」を用いたうどんなど麺、ピザやパスタやパニーニなどの洋食が売り。選んだ日替わりのランチは、この日は玄米ご飯に主菜はサケの冷製ムニエル、副菜は切り干し大根にごま豆腐、汁物は冷製野菜スープの組み合わせだった。プチデザートとコーヒー付きで1500円は、ヘルシーかつお得なメニューである。

大きな木の盆にのって運ばれてきたランチは、和と洋のテイストがバランスよく、野菜の色合いが鮮やかで食欲をそそる。切り干し大根は控えめの味付けがよく染み、ごま豆腐はしっかり締まりゴマの香ばしさが主張する。主菜のサケは身離れがよく塩加減もほどほど、冷製なので身の味をはっきり楽しめる。これらを適度に歯ごたえがプツプツした玄米ご飯が、また控えめにおかずの味を支える。桑名産ミルキークイン玄米を使っているそうで、パサつきがなく香ばしく、いかにも体にいい食感である。

総じて食材本来のうまさと力を引き出した調理で、体にスッと入り毎日欠かさず食べたくなってしまう。幼い子連れのお母さん方が多いのは、料理への安心感と畳の間の居心地の、両方のおかげだろう。こちらもデザートのイチゴアイスとコーヒーをいただいていると、裸電球の薄明かりのおかげでつい畳に転がって眠ってしまいそうになる、桑名の和みのローカルカフェである。

旅で出会ったローカルごはん…奈良・今井町 『ハックベリー』の、ダッチベイビーホワイトソース&オニオン

2020年07月16日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
今井町の入り口、蘇武橋たもとの榎を望んで、築約150年ほどの古民家をリノベーションしたカフェが建つ。ハックベリーの名の由来は、その榎から。外見は今井町にある一般的な町家のようだが、中に入ると店内は天井が高く、客席は吹き抜け3層構造になっている。和の場所柄にしては内装は欧風のしゃれた雰囲気で、界隈の女性や若い人のたまり場のよう。仕事や学校についての日常な会話が、店内で盛り上がっている。

店内はさらっと埋まっており、パインツリー製の階段を登り、三層の最上階の吹き抜け寄りの席へと通された。アンティークなテーブルふた席だけの隠れ屋風な空間で、天井にはファンが回り、直下には古民家の梁越しにフロアの客席を見下ろす。古書が並ぶ書棚の隣に小窓があり、今井町の白壁の町屋も望める展望席だ。散策で乾いた喉に、まずはコロナビールをオーダー。ライムを差し込むと炭酸が立ち上り、ヴィンテージもののランプにほのかに照らされている。

カフェタイムのフードは、「ダッチベイビー」というドイツ風のパンケーキが中心だ。スイーツ系のほかブランチ向けも3種あり、ホワイトソース&ベーコンをオーダーしたら熱々がココットのまま出された。イタリア製ベーコンの角切りが塩味が効きジューシー、玉ネギとチーズに絡めていただけばグラタン風になり、遅いお昼にちょうどいいボリュームだ。器になっているパンケーキは、中を食べ終えるとちょうどしっとり、ソースが染み、ほのかな甘さが食事の締めに嬉しい。

ビアグラスで出されたアイスコーヒーをいただきながら、熱々の料理を食べた後にクールダウン。今井町では珍しい、ディナーやバータイムも営業している店で、次回は午後遅めの今井町散策から夕刻に一杯、の流れで訪れてみたくなる、伝建地区によく似合うローカルごはんである。

旅で出会ったローカルごはん…大阪・新世界 『串カツ壱番』の、おまかせ10本

2020年07月16日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
八重勝、天狗、だるまの御三家が人気を分ける界隈の串カツ事情だが、これらは行列必至でそれなりの意気込みで臨む覚悟がいる。ほかで私的に選ぶとしたら、来るたびにいつも寄るこちら。通天閣の南東の橋脚直前と近いから、というのが理由と言うわけでないが、昼前から夜遅くまでやっていて、創作系も多いが「基本」の品がしっかりしていて、そこそこの混み具合でいつも入れるから、など、何となくいつもここな流れができている。この日も通天閣を下ったらちょうど開店の11時で、そのまま一番目の客として暖簾をくぐった。

カウンターに落ち着いていつもの流れて「どて焼き」を頼んだら、まだ早い時間のため用意ができてないとのこと。まあ知った店だしそれぐらい許容して、串揚げ10本お任せで頼んだ。串カツはペラっとした肉を畳んで揚げた、お約束の味。注釈のない肉は「牛」なのが、大阪に来た感がする。以下ししとう、豚バラ、赤ウインナー、ホルモン、レンコン、イカ、アスパラ、うずら玉子、海老の順。赤ウインナーが子供の頃の懐かしさ、ホルモンがガシガシ噛んで味が出る系、アスパラは丸一本揚げでみずみずしく、串ごとの味覚の変化が楽しい。

昼ごはんなのでこの1セットで終了しようとしたところに、「どて焼き間に合いました!」とお兄さん。とろけるスジ肉に煮汁の味が染みたゴボウ、ダイコン、コンニャクときたら、自重していたジョッキに手を出しみるみる腰が重くなる、通天閣たもとのお気に入りローカルごはんである。