ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん37…銀座 『天龍』の、ボリューム満点餃子ライス

2006年04月29日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 ほぼ毎号欠かさず読んでいる、食情報誌のdancyu。今月はメインが餃子特集、サブが缶詰特集と内容が盛りだくさんで、立ち読みで済まさずに買ってしまった。どちらかというと缶詰特集が気に入ったのだが、餃子特集も読んでいると、昔行ったことのある店や行動圏内にあるうまそうな店など捨てがたい。どうにも食べたくなり、かつて銀座に勤めていた頃に食べにいった名物餃子店へ、久しぶりに足をのばしてみたくなった。

 かつて通った社屋は銀座の一丁目にあり、近くで食事するのはいつ以来だろうか。この日のお目当ての『天龍』を最後に訪れたのも数年前で、かすかな記憶の中でも印象に残っているのは、昼時を避けることとしっかり空腹で行くこと。そこで14時過ぎまでお昼を我慢していざ、出発だ。昼は食券を買う順番待ちの行列ができる人気店で、この時間なら並ぶ客も数人、店内にもパラパラと空席が見られる。店頭のショーケースにはチャーハンや麺料理、一品料理も豊富だが、目指すはただ、餃子ライスのみ。名前の通り餃子とご飯だけという単純明快なメニューで、別に何か注文したり、ご飯を大盛りにしてもらうと、後で大変なことになることは覚えている。

 レジで食券を買ってから2階に上り、店員に中央の丸テーブルへと案内された。食券を渡して待ちながら店内を見渡すと、お客は周辺に勤めるサラリーマンや、銀座への買い物客が中心のよう。中にはОLのグループやおばちゃんひとり客の姿も見られ、驚くことにほとんどが例の餃子ライスを頼んでいる。餃子は何といっても店の看板で、1日およそ600人前、休みの日には800人前も出る定番メニューだ。調理場にある大鍋で、たくさんの量を一気に焼き上げるので、時折焼きあがった餃子がこぼれんばかりにのった皿が何枚も、フロアを行ったり来たりしている。サラリーマンはもちろん、女性客たちも大盛りの餃子を前に奮闘中で、見ていて食べ切れるのか心配になるほどのボリュームである。

 そしてようやく自分のところへも、件の餃子ライスが運ばれてきた。皿には長さ15センチ近い大振りの餃子が、無造作に8つゴロゴロとのっていて、ほかにはご飯と高菜の漬物の小皿だけ。ご飯は普通の茶碗の半分ぐらいの小盛りだが、この餃子の山を見るとそれぐらいでもう充分、と納得。一品料理を別に頼むなどもってのほかだ。この店の餃子のルーツは、昭和24年の開業の際に、店の名の由来になった相撲取りの天龍関が、店の名物になる料理を、と考案されたものという。味はもちろん、この迫力ある大きさが何よりの売りで、関取が考案したからなのだろうか。

 昼飯をずらしたおかげで底抜けの空腹のため、築かれた餃子の山に迷わず突進だ。小皿に醤油とラー油、酢を少々とって、軽くつけてまずひとつガブリ、それほどカリカリに焼けてなく、しっとりシコシコした歯ごたえの皮の中から、熱々の肉汁がジュッ。中はこってりとコクのある豚肉のあん、さらにしゃきしゃきと野菜もたっぷりで、実に涙がでるようなウマさ。豚肉を荒く挽き、じっくり時間をかけて練ることで、脂から出てきた旨味がかなり濃厚。肉汁が皿にたれてしまうのがもったいなく、餃子を「すする」ようにして食べる。

 この店の餃子のもうひとつの特徴は、餃子につきもののニンニクを使っていないこと。その分刻んだ白菜がたっぷり入っているので、豚肉が濃厚なのに味わいが軽い。厚めの皮のシコシコ感もまた、食べ応えがある。グルメマンガの「美味しんぼ」で餃子勝負のとき、かの山岡士郎が「餃子は完全食になりうる」と海原雄山に一席ぶるシーンがあった。確かにあんには豚肉ほか海老やフカヒレといった海鮮、さらに白菜やニンニク、ニラなど野菜も豊富。皮はどっしりした味わいの小麦粉が主流で、蒸し餃子では米粉で打ったむっちりした食感の皮を使うこともあり、炭水化物も充分摂取できる。ご飯はついているが、餃子だけでも1回の食事として充分な栄養素がとれるのかも知れない。

 ひとつ食べてはご飯をかき込み、またひとつ、と、8つある餃子を数えながら食べていく。餃子をご飯の上にのせてかじり、たれた肉汁が染みたご飯がまたうまい。周囲を見ると醤油と辛子をつけて食べている客もおり、これが天龍流の「通」の食べ方なのだとか。中間の4つまではするりと入り、5つ目を越えてややお腹にたまってきた。脂っこさも重さもないから、残り3つもスルスルといける。高菜の漬物がさっぱりとありがたいが、せめてスープがあるとうれしいのだが。餃子は肉汁がこぼれるほどだから、まあ気にならないか。

 始まりから終わりまでひたすら餃子、といった昼食を終えて、満足して店を後に。あれだけの大きさ、数の餃子を食べてすっかり満腹のはずが、仕事を終えて帰りに電車で京急蒲田を通った際に、ここの餃子の店もdancyuで紹介されていたな、と気になる。今日のところはおとなしく通過するが、おかげでしばらくは餃子行脚が続きそうな予感である。(2006年4月20日食記)

町で見つけたオモシロごはん36…横浜・新杉田 『すっとこどっこい』の、居酒屋メニュー諸々

2006年04月28日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 子供がまだ小さいため、なかなか家内とゆっくり食事に行く機会がない。独身の頃は、週末ともなれば横浜や銀座などに出かけ、ライブハウスに行ったり、話題のレストランをのぞいてみたり、と殊勝に? していたものだ。このところは子育てに追われているせいもあるが、これではいわゆる「釣った魚に何とやら…」状態である。とある土曜、子供を風呂に入れて寝かせ終えたところで、時計を見ると22時過ぎ。横浜へ繰り出すにはちょっと遅いが、たまにはどこか近くへ出かけて食事をしよう、ということになった。

 とりあえず最寄駅の新杉田駅周辺へ出て、飲食店街がある駅ビルに行ってみるか、以前行ったラーメンの杉田家や卯月にするか。あれこれ話しているうちに、居酒屋で適当に頼みながらじっくり飲もう、という流れになってきた。昔「女房酔わせてどーするつもりっ?」との台詞が印象的なCMがあったけど、女房と差しで外で飲むなんて、久々でちょっと気恥ずかしいような気もする。海鮮居酒屋にショットバー、小料理屋など、駅の近くにある居酒屋の中から選んだのは、新杉田駅の高架下にある『うまいもの居酒屋すっとこどっこい』。どこかで聞いたことがある店名だな、と記憶をたどると、何と婚約直前のころに今はなき鎌倉シネマワールドに一緒に行った際、帰りに飲んだ大船の店と同じだ。何だか、余計に気恥ずかしくなってきてしまった。

 扉をくぐり店内に入ると、木調を生かしたレトロなたたずまい。大船の店がどんなだったかは忘れてしまったが、ここはリニューアルした際に大正レトロをモチーフにした内装にしたという。禁煙席があるか店の人に尋ねたら「では個室へご案内します」。はやりの「ハコ系居酒屋」で、少人数の客でも利用できる個室が豊富なのが店の売りのようだ。おかげで女性客や家族連れの利用も多いとのことで、二人して個室に落ち着くと確かにプライベート感覚でくつろげる。

 店の人が運んできた今日のおすすめによると、今が旬であるホタルイカの刺身があるという。好物なのでそれをさっそく注文、さらに大判のメニューを開くと、焼き物や揚げ物を中心に品数はかなり豊富だ。焼き鳥の盛り合わせに冷やしトマトを頼み、さらに家内のリクエストで麻婆豆腐も注文。店の人に辛さを聞いてみたら「本場風で結構な辛さですよ」。どれも300~500円と値段が手軽で、ほかにもうまそうなものもありつい頼みすぎてしまいそう。たまにふたりで食事に行くと1~2品多く頼んでしまい、最後はお腹一杯で苦労することがあるため、とりあえずこれで様子を見ることにする。ラガーの中ジョッキを頼んで、久しぶりに差しでお疲れ様の乾杯、である。

 この個室、面白いことに、テーブルにビールのサーバーが設置されている。店の名物「テーブルビールサーバー」で、キリンの「一番絞り」をセルフサービスで注いで飲める仕組みだ。値段は10ミリリットルで12円、注いだ量はサーバー横にあるカウンターで表示される。すぐに出てきたホタルイカをつまみながら、まずはジョッキのラガーをぐっといく。ホタルイカは富山湾でとれる、名の通り海中で発光する珍しいイカである。小振りのを1匹つるりと頂くとひんやり瑞々しく、旬なだけに潮の香りとこってりした味わい。これだけでビールが進みすぐに中ジョッキが空になり、早くもテーブルのサーバーの出番だ。ジョッキを注ぎ口に持ってきて、ハンドルを引いてゆっくりとビールを注ぐと、不慣れなためやたら泡ばかりになってしまった。昔、うどん屋でバイトしたことがある家内に教わり、3分の1ほどビールがたまったらジョッキを斜めにして、静かに注ぐ。

 そしてビールに合う居酒屋メニューナンバーワンは、何といっても焼き鳥。頼んだ3種盛り合わせは定番のモモ、皮、ネギマで、ほかシロやガツ、子袋なんてのもある。タレ焼きを選んだら、ニンニクの風味が食欲をそそる。さらに家内のリクエストである麻婆豆腐は、唐辛子の鮮やかな赤が見るからに辛そうだ。チンジャオロースやニンニクの芽炒めといった中華料理も豊富で、これも「本場四川風」とあるだけにビリッと強烈な辛さ。花椒が効いていて香り高く仕上がっており、これまたビールが進む。

 差し向かいで料理をあれこれつまみ、ジョッキが空いたらサーバーで注いで、と、週末の夜はゆっくりと更けていく。結婚前と違い、飲んでの話題は子供の学校のことや仕事のことなど日常生活のことが中心だが、外で食事しながらだと普段よりも話が進む気がする。カルビにオイキムチを海苔が内側の「逆巻き」にした韓国風海苔巻きと、ニンニクが効いたタンタン春雨で締めくくり、お腹も一杯になり店を後に。以前のように横浜界隈に飲みに行くのは、さすがに寝ている子供を放ったらかしてでは気が引けるが、地元開拓を兼ねてたまには最寄の駅前で手軽にデート? するのも悪くないかも。(2006年4月22日食記)

旅で出会ったローカルごはん47…鹿児島・肥薩線 観光列車『いさぶろう』で食べる駅弁・栗めしと鮎寿司

2006年04月25日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 鉄道の旅の本の仕事で、熊本県の人吉と鹿児島県の吉松を結ぶ観光列車「いさぶろう」に乗車することになった。県境の峠を越えながら、展望を楽しみつつ鉄道の旅ができるこの列車、最近の汽車旅ブームのおかげもあり、なかなか予約がとれないほどの人気だ。出発時刻より早めに人吉駅のホームへ向かうと、1両ぽっちのディーゼルカーがすでに入線。古代漆色の車体に輝く金のエンブレム鮮やかな列車の車内は、木製のシートをあしらい、大きく窓をとったパノラマスペースも装備されているなど、いかにも観光列車らしいたたずまいである。

 出発する前に、列車の旅に欠かせないアイテムを仕入れなければ、とホームの駅弁スタンドを探そうとしたところ、懐かしい立ち売りがホームに出ているのを見つけた。人吉の駅前にある「人吉駅弁やまぐち」の名物立ち売りおじさんで、ホームにいい声で売り声を響かせている。「いさぶろう」の出発前には出ていることが多いそうで、おすすめを聞くと「鮎寿司と栗めし」とのこと。迷ったあげく、せっかくだから両方を買い込んで、車内の一角に陣取った。

 取材のため、人吉から吉松まで往復とも乗車するのだが、往路は写真を撮ったりメモをとったりと忙しく、駅弁はおあずけ。列車は人吉駅を出発するとゆるゆると登り、いくつかのトンネルをくぐると大畑駅へと到着した。ここから急勾配の難所をクリアするため、珍しい鉄道施設が連続する。3分ほど停車した後に、列車はいきなりバックを開始、今来た線路を引き返すのかな、と思ったら、右下にさっき登ってきた線路が見える。いったん停まると再び逆進、今度は大畑駅に戻るのか、と思ったら、駅構内を右に見下ろしながら勾配をぐいぐいと登っていく。斜面をジグザグに登ることで傾斜を緩和する「スイッチバック」で、前へ後ろへ進みながら次第に山を登っていくのが面白い。登りながら急なカーブをぐっと曲がって、列車はいつの間にか先ほどくぐったトンネルの真上へと到着。これは360度旋回して高度を稼ぐ「ループ線」で、車窓の左奥にはさっき停まっていた大畑駅が見下ろせた。行ったり来たり、ぐるりと回って、一体どっちに向かっているのか方向感覚がおかしくなりそうだ。

 ループ線を登りきるとしばらく列車は尾根線を走り、車窓左には五木や五家荘方面の山々を遠望、高原列車の風情となる。沿線最高所の矢岳駅を過ぎ、列車の愛称の由来である、肥薩線の工事責任者で逓信大臣の山県伊三郎の壁額がある矢岳トンネルをくぐったら、あとは転がるように峠を下り、終点の吉松駅へと到着した。吉松駅のホームにも立ち売りが出ており、駅前の食堂風の店で調整している「汽車弁当」が人気の様子。往路の取材が無事終わりほっと一息、帰りは人吉駅で買った弁当を頂きながら、のんびり列車の旅を楽しむことにしよう。折り返しの列車は鉄道員総裁の後藤新平にちなみ「しんぺい」という愛称で、吉松駅を出てこれまた雄大なスイッチバックの真幸駅を出ると、再び登りにさしかかる。車窓の景色がいいところで食べよう、と、ここでひとつ目の駅弁「鮎寿司」の包みを開いた。

 青竹を模したプラスチック容器のふたを開くと、鮎の尾頭付きが丸2匹横たわっているのが目に入ってきた。丸のままの鮎を1日間酢で締め、開いてご飯にのせて押し寿司にしただけと、ずいぶんシンプルな駅弁である。身の部分は厚く、ひと口頂くと思いの他さっぱりした味わい。締め加減が軽いようで尾や頭は少々固く、全体的にちょっと小骨が多いか。昆布だしで炊いた酢飯との相性も良く、球磨川の急流で育った鮎らしく、上品な旨みがしっかり出ている。

 霧島連山や韓国岳を臨む「日本三大車窓」の展望所にさしかかったころ、鮎寿司を平らげてもうひとつの駅弁「栗めし」の包みにも手を伸ばす。こちらは赤い栗型のプラスチック製容器に入っていて、中は具だくさんの混ぜご飯といった印象。切り干し大根入りの炊き込みご飯は、醤油味であっさりとおいしく、山菜や煮物など付け合わせの惣菜も手作りの雰囲気で味わいがある。豊富な具材の中でも、目玉は地元人吉盆地産の栗。大粒のがぎっしりと入っていて、しっかりした甘味がうれしい。

 栗めしを食べ終えた頃、列車は再び大畑駅のループとスイッチバックに差し掛かった。人吉の郷土の味を詰め込んだこの弁当、どちらも素朴な駅弁で、ローカル列車の旅にはよく似合う。峠を下って人吉駅に着いたら、列車の旅は無事終了。今夜は人吉温泉泊まりだから、鮎寿司の駅弁に触発され、今夜は球磨焼酎を傾けながら鮎尽くしといこうか。(7月食記)

町で見つけたオモシロごはん35…横浜・横浜駅 『龍味』の、大盛りチャーハンに麻婆豆腐

2006年04月23日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 今でこそスポーツに縁のない、食っては書き的な日々を過ごしているが、かつて自分は高校時代に陸上競技部に所属していたことがある。といっても華麗に走ったり跳んだりではなく、砲丸や槍、ハンマーといった力技の競技のほう。シーズンには毎週末、横浜の三ツ沢競技場で試合があり、槍をビュンととばしたり、砲丸をどっこいしょ、と投げたり、円盤をえいやっとぶっ飛ばしたりと、そんな地味目な青春時代を過ごしていた。ある試合の帰り、OBの先輩に食事に連れて行ってもらうことになり、バスで横浜駅へ。西口の地下街の奥まったほうへと歩き、小さな中華料理屋にたどり着いた。

 ギョーザやニラレバ、麻婆豆腐など、狭いテーブルからこぼれ落ちんばかりに並んだ料理の数々を、皆でガツガツ食べたものだ。量が多いのも売りで、誰かがチャーハンの大盛りを頼んだら、普通は大柄のおたまにひとすくいのところがふたすくいドン、と盛られて出されたのを覚えている。高校や大学の頃、底抜けの空腹のときにはよく訪れたが、社会人になってからぶらりと訪れた時、空腹だったので例のチャーハン大盛りを頼んでみたら、半分ちょっと(つまり普通の1人前程度)しか食べ切れなかった。昔ほど量が食べられなくなったのに加えて、やや行きづらい立地と狭い店ゆえにいつも込んでいるのもあり、近頃はほとんど訪れることはなかった。

 なかなか朝からきちんと食事がとれないとある土曜日、所用を済ませて横浜界隈に着いたもう15時近く、これだけの空腹を埋める店は、あの店のほかはない、と、久々に『龍味』を訪れてみる気になった。ザ・ダイヤモンドのメインストリートから右へ、横浜のローカル書店・有隣堂を過ぎ、トーヨー街という間口の狭い飲食店が並ぶ小路に、昔のままの小さな店を発見。入口から覗いてみると、4卓程度のテーブル席はさらりと埋まっていたが、10人ほどのカウンターには数席、空きがある。店頭に麺物や飯物の写真入りメニューほか、タイムサービスやセットメニューの張り紙もいくつか掲示されているが、ここへやってきた以上、頼むものはもちろん決まっている。

 「チャオメン(焼きそば)イーガ(ひとつ)!」「コーティエ(焼き餃子)!」と、中国語で厨房へオーダーが飛び交う賑やかさ、そしてカウンター越しに見える厨房では、立ち昇る炎の上で大きな中華鍋がじゃんじゃん舞っている活気。昔と変わらないな、と思いながら席に付くと、壁にも手書き短冊のメニューが豊富だ。ニラレバ炒めやニンニクの芽の炒め物、焼きそば、さらに麺類もラーメンほかタンメン、最近始めたとある名物のタンタンメンなど。麻婆豆腐は麻婆丼でならサービスメニューで何と、500円。隣の席の客が、ギョーザをつまみながらビールを飲んでいるのも気になる。

 周囲に色々目をやってちょっと迷ったが、店の人にオーダーを聞かれたら反射的に「チャーハンと麻婆豆腐」。チャーハンを大盛りとしようか、ギョーザもひと皿頼もうか迷ったが、食べ切れなかった時のことを思い出して自重する。カウンター越しには、Tシャツ1枚のいでたちの料理人が4人、殺到するオーダーを無駄のない動きでてきぱきとこなしている。チャーハンはベテランの料理人がとりかかっているようで、玉子を手早く割り入れ、みじん切りにされた具材をバッ、と鍋へ放り入れ、ご飯と一緒にジャッジャッと炒め回し、とあっという間にできていく。舞ったコショウがこちらへとんできて、隣の席の客とふたり、くしゃみがでる。

 一方、麻婆豆腐は若い料理人の仕事らしい。大柄の豆腐を一丁、手のひらに載せて、これまた大きな包丁でさいの目にささっと切っていく。豆腐を中華鍋に入れていくらかの調味料をおたまでひょいひょい、と足して、豆腐を崩さないように揺らしながら混ぜていく。ひとり分に豆腐1丁とは、これも量がたっぷりだな、と少々心配になったが、別の客が注文した麻婆丼と半分ずつにされていてちょっと安心。皿によそって刻みネギをパッと振ったらできあがりで、カウンター越しに「どうぞ」と差し出された。

 チャーハンは刻んだナルトにチャーシュー、ネギ、卵とシンプルで、さっそくレンゲでひと口、ふた口。ご飯がパラリとして香ばしく、口の中で米粒を食っている食感が豊か。シンプルな分、ご飯を食べていることが実感される味で、腹が減っている時は泣けてくる味である。続いて麻婆豆腐もひとさじ。とろみの強いあんが豆腐にしっかりからみ、ひき肉が入っていないのが面白い。麻婆豆腐といえば刺激的な唐辛子の辛さが身上だが、この店のは甘ったるい味噌が利いていて、ご飯ものになかなか合うようだ。程良く崩れた豆腐が食べやすく、つるりと瑞々しい味わい。ちょっとお腹がいっぱいになってくると、刻みネギが爽やかな口直しになってありがたい。

 空腹もあってか、今日は前回食べたときの雪辱? なり、割と楽勝でチャーハンも麻婆豆腐も平らげてしまった。両方で1000円ちょっとと、値段が安いのも相変わらずで、これならチャーハンを大盛りにしても、ギョーザ一皿頼んでもよかったかも。もっとも昔のように、日々走って、ウェートトレーニングやって、と運動漬けの毎日ではないのだから、食べた分がそのまま身についてしまうから要注意。旺盛な食欲も、鍛えられた筋肉の高校当時の体型も、今では遠くなりにけり、か。(2006年4月16日食記)

町で見つけたオモシロごはん34食目…横浜・港南台 『日本橋宮川』の、うなとろ丼とひつまぶし

2006年04月22日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 忙しかった日や疲れたときには、うなぎが一番だ。スタミナがつくことはもちろん、蒲焼を買ってきたら丼飯にのせてレンジでチン、とやるだけ。ほぼ調理無用? で食べられるのがまた、疲れているときには実にありがたい。

 1日中、仕事や家の用事で忙殺されたこの日、夕方になると動くのもしんどいほどへとへとになってしまった。スーパーでおかずになりそうなものを買ってきて、晩飯は手をかけずに済まそう、ということでうなぎが候補にのぼる。しかし蒲焼を買いにいって帰って飯をよそって、子供の分も用意して… と、考えているうちにどんどん面倒になってくる。同じ出掛けるならばいっそのこと、外食。最寄りである根岸線港南台駅前のショッピング街「バーズ」のレストラン街を目指し、クルマを走らせる。

 うどんやイタリアン、寿司、丼物、とんかつなど、3階のレストランのあるフロアを歩いていると、子供たちはおもちゃつきのお子様セットがある店へ行きたい様子だ。一度候補に挙がった以上、今日の気分はやっぱりうなぎ。目指す『宮川』へとまっしぐら、店頭のショーケースに並ぶメニューを、ほらあれがおいしそうだ、などと子供たちに勧めつつ店内へと入る。ここは日本橋に本店があるうなぎと鳥料理の店で、デパートの食事処にしては落ち着いた和風の店構えが目を引く。数卓のテーブルと小ぢんまりした座敷があり、年配夫婦やひとりの客が多い中、子連れで恐縮だが、空いていたカウンターに席をとる。

 さすが専門店だけにうなぎはうな重、うな丼とも、並から特上まで、品揃えは幅広い。目移りする一方で、結構いい値段がするな、と思っていたら、うなとろ丼やひつまぶしなど、値段が手ごろなうなぎ料理がいくつかある。自分はさらに元気を出すべくうなとろ丼とビールに、息子はこれはなんだろう、と首をかしげながら、刻んだうなぎがいっぱいのっている「ひつまぶし」を選んだ。お子様ランチはないけれど、子どもたちも気に入ったのが見つかったようでひと安心。海鮮丼や北海丼といった丼ものや、煮物や椀がついた弥生膳など御膳ものなど、うなぎ以外の料理も各種揃っているのもありがたい。

 甘辛くほっこりしたうなぎの肝の佃煮を肴にビールを飲んでいると、それぞれが頼んだ料理が次々に運ばれてきた。ここは日本橋の本店と比べ、ミニ会席や季節の御膳が充実しており、小鉢やおかずがついていて品数が結構多い。うなとろ丼は蒲焼2枚がのったうな丼に、すり鉢に入ったとろろが別添えになっている。これをうなぎの上からかけて、ご飯と一緒にかき込む仕組みのよう。先に蒲焼をそのまま頂くと、皮がパリッ、身はしっとりふっくらと、いい塩梅の焼きあがり。タレもそれほど甘ったるくないので、うなぎ本来の味がしっかり楽しめる。焼き加減上場の蒲焼の上に、とろろをかけてしまうのが少々もったいないので、ごはんにかけて口に運び、あとからうなぎをひと口。するとうなぎの味わいにとろろの粗野な香りが加わり、いかにもスタミナが付きそうな力強い味になる。

 ふと妙案を思いついてうなぎを半分ほど残し、あとは「とろろご飯」にして食べ進め、ご飯も半分弱残したところで小休止。隣で食べている息子を見ると、店の人に教わった通りのやり方でひつまぶしを食べている。ひつまぶしは名古屋名物のうなぎ料理で、小ぶりのおひつに盛ったご飯の上に、小さく切った蒲焼がのせられている。これをしゃもじで1膳ずつ茶碗によそって食べるのだが、3種類の食べ方が楽しめるのが面白い。1膳目はそのままうな丼風に、2膳目は添えてあった薬味をのせて一緒に、そして3膳目は薬味をのせた後、添えてある急須に入っただし汁を上からかけ回して、何とお茶漬けのようにして頂いて締めくくるのが流儀とか。以前、名古屋に行ったときに食べたことがあり、3膳目のお茶漬けが大層気に入ったのを思い出す。

 そこでだし汁をちょっと拝借、さっき少しだけ残しておいたご飯とうなぎの上からかけまわして、ちゃっかりこちらもうな茶漬けを楽しませてもらった。だし汁のおかげでうなぎがさっぱりと食べやすくなるから、締めくくりの3膳目にもってこいなのかも。こちらはついでにとろろも加え、うなとろ茶漬けにして締めくくった。だし汁が少なくなったので、追加を頼んで息子に返すと、品数豊富なのを頼んだようでまだ刺身や煮物が並んでいる。このごろ食欲旺盛だからちょっと高い店に行った際に、手加減なしで注文されると少々心配。おもちゃつきのお子様ランチがある店に行きたい、などと騒いでいるうちが、かわいいというか「安心」なのかもしれない。(2006年4月9日食記)