ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…下風呂温泉 『ホテルニュー下風呂』の、イカ料理あれこれ

2013年09月29日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
本州最果ての湯と聞けば、津軽海峡に面した小ぢんまりとした温泉街が浮かぶ。下風呂温泉はまさにそのイメージで、部屋からの眺めは津軽海峡越しの北海道が手に取るように臨める。直線距離では青森市街より函館がずっと近く、テレビは札幌キー局ばかり。ここは本州でも、文化圏的には北海道が近いようである。

お向かいの函館がイカが名物なのと同様、下風呂漁港もイカ漁が盛んだ。温泉街の前に広がる漁港では漁に出る準備中で、水揚げの見物前に温泉と晩飯は済ませたい。宿泊したホテルニュー下風呂の夕食の膳は、おかずはすべて魚料理。もちろんイカ刺しもあり、ショウガ醤油にからめてすするとパキパキシコシコと元気な歯ごたえ。東京で食べるとねっちょりしており、イカは水揚げ地に足を運んで食べる価値があると実感する味だ。

宿の方によると、下風呂漁港のイカ漁は1日2回操業していて、朝の出漁は15時ぐらいから、夕方のは夜中ぐらいからの帰港となる。これから日が沈むと、漁り火が右手の大畑沖と左手の大間沖に連なり、漁が進むにつれて正面の下風呂沖に集まってくるという。遅い時間になると北海道沿岸で操業する漁火も混ざり、対岸がライトアップのように照らし上げられ幻想的なのだとか。

夕方出漁した漁船は早いと夜中過ぎ、漁獲により未明まで漁を続けることもあるそうで、水揚げを見物するなら船が戻ってくるのを、部屋の窓から見ているといい、とアドバイスいただいた。しかしイカをはじめ各種魚料理で満腹、さらに温泉のおかげでつい、ウトウト。いつしか夜が明けていて漁船はほぼ帰港、水揚げも終わったようで、荷捌き場はすっかり静かになっていた。

朝食はイカ料理がさらに増え、青森の郷土料理・貝焼きがメインだ。むつ湾沿岸ではホタテを使うが、下北ではイカを使用。身はクキクキ甘く、ワタと卵が身にからみこってりコクがある。小鉢の塩辛が絶品で、ワタの深みが数倍に膨らみ発酵香が鮮烈。さらに刺身は朝とれのを使用しているから、昨晩のとは鮮度が違う。箸でつまむと皿が透ける半透明で、コキコキ、プツプツと切れがよく甘みが柔らかい。三品みんな熱々ごはんにのせてザッパザッパといけば、イカ水揚げ地にいる至福に浸れることといったら。

無念、寝過ごして水揚げ見損ねました、と朝食を運んできた昨晩の方に話すと、昨夜は4時ぐらいまで漁をしていたので仕方ないよ、と笑っている。下風呂のイカを生産の現場から堪能するべく、今度は午後いちに来てひと風呂浴びて夕方まで寝てから、食べて漁り火を眺めて水揚げを見て、と徹夜で頑張るかな?

下北てくてくさんぽ4

2013年09月29日 | てくてくさんぽ・取材紀行
東北行もいよいよフィナーレ。青森に出たら新青森から新幹線で、と素直に帰る私ではない。来春にも廃止の噂がある、この寝台列車。惜別乗車はしないタチだが、津軽や秋田、庄内の旅でお世話になった思いがあり、ぜひと予約した。

で、さっそく窓枠に大名行列のメイキング。まあ全部は平らげませんが…。

ローカル魚でとれたてごはん…八戸 『サバの駅』の、八戸前沖サバ料理

2013年09月28日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
今回のきた東北行で、八戸で決め打ちでの訪問を狙った店がある。その名もズバリ「サバの駅」。日本で唯一のサバ専門料理店で、大衆派ローカル魚ハンターとしては至高の目的駅、いや目的店である。にしても日本で指折りの水揚げ高を誇り、魚種も豊富な八戸にあり、なぜ全国的な大衆魚を看板にしたのかも気になるところだ。

店は繁華街の六日町にあり、カウンターに付いたらサバ料理のコースをオーダー。定番の献立に加えオリジナルメニューもあり、サバナイトにはもってこいである。最初のしめサバは絹のようなふわふわの舌触りで、ホロホロとほどけていく。脂の甘さが自然に引き出され、サバの持ち味を丸裸にした一品。続く味噌煮はトマトも加えてあり、とんがった酸味が身の旨味をひっぱりあげている。和惣菜のサバ味噌というよりイタリアンのトマトソース煮風で、青魚のくせを抑え実力を立てるベストな料理法かも。

二品をじっくり味わっていると、「熱いうちにどうぞ」と店のお姉さんが串焼きを運んできた。つくねはいわば、青魚の身の旨味の集合体。ホッコリ膨らみがあり、かみしめると次第にサバの全貌が浮かんでくる。つなぎは鶏肉だけ、軟骨風の食感にゴマを加えているのが、料理人の遊び心とか。もうひとつの身の焼き物は、かじればジュッと芳醇な脂がしたたるのが、焼きサバ好きには涙モノ。腹身や背、頭側、尾側など、部位により食感も脂ののりも違うため、食べ進めるとシコシコ、ホクホク、さっぱりとひと切れずつ違う。

お姉さんによると、店で料理に使うのは「八戸前沖サバ」と称されるブランドサバという。漁場の八戸沖北緯40度30分は水温が低く、脂肪の蓄積が促進されるそうである。サバは北から南へ回遊するため、八戸沖での漁期は初秋から晩秋と短く、今が走りであり最盛期。漁場は日本で最北、脂肪含有量も日本一と、八戸のサバは大衆魚ながら当地の顔といえる実力派だった訳だ。

熱々の品でお腹が落ち着いたところで、酒の進む珍味2品盛りがありがたい。ヅケはゴマとネギの薬味と一緒にいくと、シャッキリシコシコとカルパッチョ仕立て。しっとりした食感に、青魚の独特な香りがいい。味噌締めはおろした身を、特製の味噌に漬けただけ。麹の香ばしさが、身の旨味と相乗効果を醸し出す。若狭のへしこを思い出し、日本酒かご飯が欲しくなる、日本人の魂を揺さぶる味である。

圧倒されるような八戸前沖サバの旨さに押されっぱなしで、怒涛のごとく締めのご飯ものと汁物へ。サバの棒鮨は、サバの身ががさくりトロリと酢飯を包み込む一体感。京都名物のより、サバの存在感がストロングな押し寿司だ。汁はサバだしのせんべい汁。刻んだサバの身が強烈なダシとなり、せんべいにヒタヒタに染みたサバ味の濃縮がすごいこと。サバづくしの留めを、ずっしりと厚くまとめてくれる。

八戸沖のサバがうまいのは、回遊ルート上の絶妙な立地が大きいという。サバは北の海域では脂がきつ過ぎ、八戸から下ると産卵を控えて脂が落ちていく。魚は水揚げ地で食えとは、全国区の大衆魚もまた同じ。サバ好きの自分にとって、住んでしまいたい港町がまた増えてしまったようだ。