ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

この冬は佐藤正午様!

2016-01-12 09:08:23 | 本と雑誌

 こんなにゆったり過ごせた冬休みは、おそらく人生初のことではないか。11月末にシニア4期生公演『シェアハウス ブルース』が終わり、そのまま一気に突っ走って菜の花座の『不幸せくらべ』が12月20日、その後はなーんもない!いやあることはある。次は4期生卒業公演コント2本の締め切りが1月27日、菜の花座の新作台本はどんな遅くとも2月いっぱい、さらに引き続いて菜の花シニアプラザ団第3回公演。そう、あと数日もすれば、この長閑な冬休暇もお終いとなる。

 いや、すでになし崩しに脚本執筆モードに足を踏み入れつつあって、コントの設定とか、シニア団の作品筋立てに頭の一部が回転し始めている。ほぼ3週間のモラトリアム!まずは有意義に楽しめたかな?

 この冬、いたくお世話になったのが、佐藤正午だ。ミステリー作家ってところに分類されるんだろうか?少なくとも売れっ子作家ではない、多分。実は僕も去年の10月まで知らなかった。知ったきっかけは、朝日新聞に載った東山彰良と池上冬樹の対談秋の読書週間、「ミステリーに酔う」、だ。こういう名うての読み上手の手ほどきは、行き当たりばったり、時々読者人、の僕には大いに参考になる。

 この対談の中で、注目している作者として上げていたのが、佐藤正午だった。うぬっ、何奴?二人が共通して賞賛するのは、語りのうまさだ。池上のさらに孫引きで申し訳ないが、「『アンダーリポート/ブルー』(小学館文庫)に、伊坂幸太郎が書いた解説文、「シンプルな筋書きを、決して難しくない文章で描き、迷宮のように仕上げるのは至難の業だ。この作家はそれをやる」。」を上げればわかってもらえるだろう。

 うむっ、これは面白そう!ミステリー小説は好きではあるが、いつもある種の物足りなさを感じてきたからだ。それは、ミステリアスな展開におもねるあまり、設定が適当だったり、心理描写が一面的だったり、謎解きだけでドヤ顔していたり、最近は探偵のキャラだけで売ってたり、どうも、暇つぶしを越えないし、読後のむなしさにうんざりしていたからだ。

 それと、僕自身書くものが、ストーリー重視で厚みがないとも感じていたことも興味を引かれた要因の一つだ。そうか、じっくり書き込む作家なのか、それはぜひ読んでみなくっちゃな。ということで、最初に手に取ったのが、『身の上話』。どうでもいいような不倫男に引きずられて職場放棄して着の身着のまま東京に出てきてしまう女の身の上だ。こう書くと、なんかずぶずぶの愛欲小説の趣だが、すぐに無責任男なんかから話しは外れ、たまたま職場の同僚に購入を頼まれた宝くじが2億円の当たりくじだったところから、話しは微妙に転がっていく。大金を手にした、女の波立つ心、じわじわと迫ってくる許嫁、猫ばばされたかもしれないと不信感を抱く同僚の追求、匿ってくれる高校の後輩とその彼女との不可解な同居生活と、息つく暇もない、スリリングな展開。お手並み、お見事!たまたま渡しそびれた宝くじが高額当選というこの単純な出来事一つから、こうも分厚く心を揺り動かすうねりを作り出せるとは!

 文章の巧みさにも大いに惹かれた。小説家の比喩ってやつには、随分手前勝手で、どうしてそんな喩えが出てくるの?って白ける場面も多いのだが、佐藤正午の表現には、胸を突かれるものが多かった。その後読んだ『小説の読み方』(岩波新書)の中で、彼の並々ならぬ文章へのこだわりを知って、強く納得したものだった。

 そうなんだ、文は練りに練らねばいかん。たわいない出来事にも沢山の不思議が隠されている。とかく、筋立ての斬新さに頼り切って一気に走ってしまう僕にとっては、鼻っ柱をへし折られるような体験だった。

 と、こんな衝撃的な出会いもあって、その後、『Y』、『アンダーリポート』、『ジャンプ』と読み続け、『きみは誤解している』、『永遠の1/2』が、これからのお楽しみとして手元にある。前3冊はいずれも深い満足のうちに読了した。『Y』は、生き直しパラレルワールドの話し、『アンダーリポート』は交換殺人、『ジャンプ』に至っては、女の失踪だ。どれも題材そのものは真新しいものではない。だが、そこにかけられた複雑で濃厚なソースは、ありきたりのサーロインなど添え物にしてしまうほどだ。などと、喩えてしまうほど、僕も影響受けている。

 そうそう、昨日ちらっと取り上げた結城昌治『ゴメスの名はゴメス』は佐藤正午のお勧めだったんだ。こんな佐藤正午様に出会えたことが、この冬の本当の豊かさと言っていいだろう。

 

 

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