ディクシー・チックス(DIXIE CHICKS)、グラミー賞5部門総なめ!おめでとう!!!ってここでいくら叫んだって、彼女たちには届きっこないし、届いたところで、見向きもしないよな。でも、受賞が決まった時、やったぜ!なんて、口走ってた、もうすぐ、60歳だって言うのに。
受賞したのは、最優秀楽曲賞と最優秀レコード賞がNOT READY TO MAKE NICE。最優秀アルバム賞がこの曲が入っているTAKING THE LONG WAY、て゜、この三つが主要な部門なんだって。って、ぜんぜんわかってないよ、グラミーのこと、知らないで喜ぶなって。
DIXIE CHICKSが、03年ロンドンのコンサートでブッシュ批判をしたってのは、知ってると思うけど、なに?知らないって?じゃあ、ネットでチェック!メンバーの一人ナタリーメインズが、「(イラク戦争を進める)ブッシュと同じテキサス出身で恥ずかしい」って発言したんだ。その頃は、アメリカは、行け行けやっちまえで沸騰してたから、彼女たちへの攻撃はものすごかった。例えば、彼女たちのCDをトラクターで踏みつぶすなんてことまでやったそうだ。怖いしつらい話しだよ。もちろん、演奏活動もほとんどストップ。このアルバムはその時からの沈黙を破って、3年ぶりに出たものだった。
NOT READY TO MAKE NICEは、その3年間の濃い沈黙の、謂わば総括みたいな曲なんだ。許し合って水に流すなんて、気持ちにはまだとてもなれない、って歌ってるんだ。この曲やアルバムがグラミーに選ばれたって意味は、とても大きいね。さすが、アメリカだよ。奇妙に誠実なんだよな。悪いと気付くとしっかり謝れる、これって日本人にはとっても苦手なことじゃないか。でも、この事件に対してああだこうだ言おうと、この記事を書いてるわけじゃない。なんで、グラミーとって、やったぜ、なんて、叫んじまったか。それは、この曲を、昨年、菜の花座の芝居で使ってたからなんだ。
『さよならのメモワール』作・演出:河原俊雄。5人の女性の一人芝居をダンスでつなぐっていう、ちょっと、粋(って、思はない?)なステージだった。その第一話『おひとよし』のオープニングにRUBBOCK OR LEAVE IT、エンディングにNOT READY TO MAKE NICE、をこのCDから使わせてもらったんだ。
愛する男の代わりにひき逃げの罪をかぶる女の話だ。警察での取り調べが主なシーン。刑事や弁護士との対応を女一人のセリフと表情で表現した。男が運転していたに違いないと、厳しく追及する刑事。あっ、もちろん、その場に役者はいない。頑強に自分の罪を主張する女。そこには、下積みからはい上がろうともがく男への愛情と共感があったのだか、男が罪を逃れようとしたのは、父親の社会的地位を守るためだった。気付いた女は、真実を自白しようとするが、すでに、警察にも裏から手が回されていた。罪を被せられたまま、取調室に取り残された女。激しくドアを叩き、無罪を主張する、そこにこのNOT READY TO MAKE NICEが静かに流れる。
どうですか、いいじゃないですか。いやあ、今思い出しても、涙がこぼれるもの。って、テメエで感動しててどうすんだよ。この曲を選んだのは、歌詞をじっくり吟味してってわけじゃない。ただ、直感。これで、この芝居は幕を下ろしたい。ただ、これだけだった。でも、今、考え直してみると、結構、芝居の女の気持ちは歌詞につながってるんじゃないか。男と社会のしたたかさに、陥穽(落とし穴)にはめられた女。きっと、懲役刑だろうな。刑務所の中で、この曲のような、静かな怒りをたぎらせる続けるだろう、で、刑期を終えてしゃばへ出てきた女は、きっと言うんじゃないか、NOT READY TO MAKE NICE。
それと、オープニングのRUBBOCK OR LEAVE IT、これは、このアルバムで一番激しく疾走するロックだ。下積みの男女が、社会への恨み辛みをたたきつけるようにバイクを暴走させる幕開けシーンにぴったりなんだなあ、これが。だって、この曲は、メンバーの一人が、偽善的で押しつけがましい保守的な故郷に、三行半を叩きつけて飛び出す歌なんだから。ということで、およそ、半年前、このアルバムに込められた思いを、舞台の上で役者と一緒に生き抜いていたってことなんだ。いやいや、彼女たちの苦しさ、苛立ち、恐怖の重さにはとてもとても及ばないけどね。
ってことで、DIXIE CHICKS、グラミー賞5部門総なめ!おめでとう!!!と、もう一度叫んでしまおう。それにしても、彼女たちの強靱さは凄い!国や権力と真っ向勝負で、一歩も下がらず、ありとあらゆる迫害、脅迫、恫喝にも屈することのなかった強さ、しなやかさ。もし、似通った境遇におかれた時、私は、同じ地点で踏みとどまれるだろうか?