ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

春一番:トゥーランドットの熱い風

2008-03-30 21:28:03 | 演劇

 ミュージカルの鉄則、それは何が何でもお客さんを楽しませるってこと。まずはエンターテインメント。それに、これでどうだ!!ってくらいに徹してくれたのが、宮本亜門のトゥーランドットだった。まず、入り口、もぎりのお姉さんたち、みんなトゥーランドットの衣装着てるじゃないの。このサービス精神、洒落た工夫、もう、これだけで、よし!許す!て叫んでいたね。

 劇場に入ってさらに驚き。プロセニアムに銀色の龍が巻き付いているんだもの。そうそう、中華街の入り口なんかで見る奴さ。舞台は、藪を金属で造形したような吊りものが、幕の代わりに全面を覆っている。ぞくぞくするよね、こんな舞台装置見せられたら。始まる前でこれなんだから。

 道化風の物売りの軽口と歌が終わると、いよいよオープニング。これがまた憎い!袖幕が人一人分開くとまばゆい逆光の中、後ろ姿の将軍が浮かび上がった。かっこいい!そして、その袖幕が開く。と、とてつもない階段舞台がコロシアムの客席のように、上中下にそそり立っていた!!高さ3間、段差は20段ほどか、黄金色に燦然と輝いている。この急な階段を走り回り転げ落ちる立ち回り、もう、ここまでで入場料の半分は見せてもらったって気分だ。

 しかも、その巨大な階段がやたら動くんだ。まず、中央は下の段1間半ほどがするすると奥にたたみ込まれて、それが高い城壁を表し、その頂上部分は皇帝の玉座になった。上手、下手は出たり引っ込んだり。しかも、その階段の下部は抉られていて、そこが牢獄になったり隠れ家なったりと工夫を凝らす。 

 これに、緞帳代わりになっていたメタルの藪が上がったり下がったり上下に移動したり、もうめまぐるしく動くんだ。おっと、このメタル藪は中程のバトンにも吊ってあって、これが情景をしきる役割を果たす。もちろん、これも右左、上下に移動する。

 これら巨大な装置が動き、次々とシーンが作られていくのだが、これを際だてているのが、照明。これがまた実にいい。階段が鈍色や青色に染まったり、銀の龍が金色に輝いたり、長方形に仕切った明かりが道となったり、ほー!ほー!と感嘆しきりのフクロウさんになってしまった。

 次にというか、実は一番気に入ったのが、衣装だ。色合いといい、材質といい、デザインといい、もう、一つ一つがため息、さすがは世界のワダ エミだよ。どんだけ惹かれたか?普段は絶対買わないプログラム、なんと2500円も出して買ってしまったもの、衣装の写真が欲しくて。特に、リューが怪我をしたミンにそっと羽織らせる上着?の素晴らしいこと。あのシーンは、あの衣装だからこそ、成り立ったとさえ感じた。

 さらに、音楽、これも絶品だった。原作のプッチーニを感じさせつつ現代に生きる美しい曲の数々だった。演奏も少ない人数ながら、大編成を感じさせるような豊かな音色を響かせていた。合唱も、できるぞこいつらって感じで、大満足させてもらった。主役の男二人の歌唱力には問題有りだったけどね。さらに、脇役たちの軽業の数々、なんと、中国から少林寺の連中呼んでたんだ。

 どう、この旺盛なるサービス精神!!これがエンターテインメントってもんだ、ミュージカルってもんだ。もう、これだけで、OK!もとはとったぜ、って思ったね。だから、終わったときはちょっとためらったけど、スタンディングしてしまったものね。

 じゃあ、そのちょっぴりのためらいって何か、って言うと、実はその装置にあったんだ。装置を動かし過ぎたんじゃないかってことが一つ。次々に大きな装置があっち行きこっち行きするので、どうにも物語に集中できなかったんだ。高所での立ち回りや移動する装置を縫うような動きが、見ていてはらはらしたってこともあった。

 それと台本。これはちょっと残念だったかな。獅童の演じた将軍の造形が薄っぺらな悪人になっていたこと。もっと自らの出自と女帝への愛に苦しみもだえて欲しかった。そうすれば、最後の謀反ももっと切ない荒々しさをまとうことがではきたと思う。トゥーランドットの王位継承にまつわる秘密が明らかになるのも、あまりに唐突だった。しかも、語りだよ。もっと、前半で伏線を打てなかったのかなあ。それからカラフのやるべき仕事ってのもよくわからなかった。だから、将軍を討ち果たした後、カラフとトゥーランドットの一時の別れも納得できなかった。さらに、5年間で国が再建されて、女帝が王位を捨て民衆に主権を移譲するって話しも、変に今風で気持ち悪かった。

 とは言え、リューの純愛、トゥーランドットの寂しげな威厳、男でもない女でもないミンの切ない存在感、これは胸に迫るもがあった。

 そして、最後の祝祭クライマックス!渦巻く赤、赤、赤!それまで青と灰色だった衣装がすべて赤に変わっていた。こういう手練手管、好きだよなあ、もう、絶対いい!!あっ、そうそう、感激にウキウキしながら出てきたら、なんともぎりや案内のお姉さん達の衣装も赤に変わっていた。参りました!!

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

四季は別世界

2008-03-29 08:11:04 | 演劇

 一年ぶり、東京へ観劇貧乏ツアーだ。定年記念ってわけでもないけど、置農子どもミュージカルの舞台作りが一応一段落した時期でもあり、これから先全国大会やら菜の花座文翔館公演でめちゃめちゃ忙しくなることが予想されるので、ここは一つ勉強しておかなくちゃ、と、あえて強行した。部員達のブーイングを無視してね。

 今回も1泊2日、3本の舞台を見た。珍しくすべてミュージカルだ。劇団四季の『李香蘭』と宮本亜門の『トゥーランドット』、それに『ベガーズ オペラ』だ。できれば小劇場ものを挟みたいと思ったんだけど、時期が悪いのか、これどう?って公演がなかったので、ミュージカル3本になった。

 さて、『李香蘭』だ。四季劇場・秋での公演。初めて行った四季劇場、随分シンプルなのに驚いた。軽食、飲み物の売店もなし、くつろげるロビーもぽつんぽつんと椅子があるだけ。ミュージカルを見る環境にしてはやけに寂しい。特にキャッツシアターのテーマパークみたいな飾り付けを見ていたから、かなり拍子抜け。トイレの消臭剤も無臭!まっ、これは僕には好ましいことだったけど。

 客席はほぼ9割方埋まった。平日だって言うのにこの集客力、たいしたものだ。僕はもちろん、てっぺんのB席それも最後列だ。意外なのは、お客さんがとってもカジュアルなことだ。普通ミュージカルの観劇って言うと、ちょっとお洒落をした女性達で華やかな雰囲気に溢れるのに、主体は中年のおばさん達。それも、階層的には庶民?こういう人たちに四季って支えられてるんだ。ちょっと意外な発見だった。

 ステージには夕暮れの満州平原を牛を追っていく農夫の姿が描かれた幕が引かれている。うっ!ちょっとまずい、かも。センスないんだものこの絵。幕開きとともに、心配は現実になった。

 幕が上がると、男装の麗人・希代のスパイ:川島芳子が宝塚風に歌い踊って物語の大筋を語る。これはヤバイですぞ!歌詞がいかにも説明的で引いてしまう。案の定、この説明過剰は最後まで続いた。日本が戦争にのめり込んで行く過程をショートショートでつないで行くという構成だ。軍部の横暴、満州国設立の目的、帝国列強の干渉、国際連盟の脱退、それを煽ったマスコミ、こういった歴史の一コマ一コマが、短い挿話、て言うより短いセリフで表現される。観客のみなさん、戦争に歩む昭和の歴史を勉強しましょうって具合だ。これって随分お節介だって思わないか。作者の啓蒙主義の臭さがふんぷんだね。

 それでも、そのセリフや描き方が面白ければいいんだけど、これがまるで工夫が足りない。次々変わるシーン展開が物語への感情移入を妨げていた。時折入ってくる重たいシーン、例えば李香蘭と恋人の木村との別れのシーンなんかも、愛するものを戦場に送り出すせつなさ、哀惜の思いがまるで伝わってこない。

 テンポ良くシーンを重ねていくって方法があったて別にいい。ただ、その一つ一つが面白いってことが大切だよ。その際、コミカルな味付けってのはどうしても必要だと思うのだけど、これがほとんとど不発って言うか、配慮がない。唯一感動したシーンは、死に行く兵士達が一人一人その遺書を語りつぐシーンだった。おそらく、遺書をそのまま使ったか、丁寧に下敷きにしたに違いないそれらの言葉は、一つ一つ胸を打つものだった。て、ことは、この舞台はまったく戦争の持つ重さに迫れてもいないし、もちろん越えてもいないってことだ。

 もっと致命的なのが歌とダンスだ。このありきたりの明るさはなんなの?昭和の戦争、それに翻弄された人々を描く歌とは到底思えない。もちろん、心に突き刺さってくるような美しい歌も歌詞もまるでない。ラストシーンの日本と中国は兄弟、愛し合うなんて歌詞も、ちょっと安易で白けてしまう。

 装置についてはやたら金かかってるよな、って印象だ。絵を描いた紗幕が3枚?それと様々な吊りもの。巨大な大砲が突き出た軍艦もあった。でも、この軍艦のセット、たった一曲、『月月火水木金金』の歌とダンスだけに使うんだから、贅沢。でも、なんか、センスがイマイチなんだなあ。あっ、すごい!やるー!ってこっちの横面を張り飛ばしてくれないんだ。もちろん、これ、いただき!って舞台の工夫もほとんどなかった。

 結局、このミュージカルは、マンガ昭和史入門ってところかな。四季ファンの人ごめんなさい。この後見た『トゥーランドット』と『ベガーズ オペラ』が素晴らしく良かったから、こんな酷評になってしまった。この『李香蘭』のわかりやすさとか、安心できる歌ってものが四季の魅力ってことなのでしょう。それはそれで素晴らしいことだと思います。それと、この圧倒的な集客力ね、素晴らしい!

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

演劇漬けの二日間

2008-03-22 21:25:28 | 演劇

 いよいよ切羽詰まってきましたよ、置農子どもミュージカル2008『合い言葉は?もったいない!』。本番は3月27日(木)、後4日だよ。なのに!今日、ようやっと動きが付いた。それも、なんと!今日一日ですべて終わした。いかん!こんなやっつけ仕事、う~ん許せぬ!不埒者め!と、わかっていながら、このていたらく。我ながらほとほとうんざりする。理由はいろいろあった。でも、言い訳は見苦しい。じっくりと手を入れて納得のいく仕上げまでもって行けなかったその後悔と反省だけは、しっかりと心にたたんでおこう。

 それにしても、今日はハードだった。朝の9時からランニングでスタート。ストレッチと筋トレも手抜きせず、ミュージカルの稽古に入ったのは、10時過ぎ。午前中はまず歌のチェックと振り付け。ダンス担当のカナミが考えてきたフリをさらに肉付けして一曲ずつ仕上げていく。出ハケから立ち位置から、一つ一つ押さえていく。これをなんと9曲。オープニングはバンド演奏付きだ。土井先生が沖縄エイサー風の曲を付けてくれたので、これの稽古はもう、めちゃめちゃ楽しかった。ボンボに締め太鼓2本、チャンチキとアコーディオン、それとタンバリンって、なんじゃこの編成は?なに、今、演劇部にある楽器を総さらいしたってだけのこと。これにエイサーもどきの踊りを付けて、キャスト12人全員で華やかに幕開きとなる。他にサンバもあればブキウギもマーチもあり、もちろんバラードあり、NHKみんなの歌風もあって、一曲一曲踊りを楽しみながら仕上げていった。結局、歌のチェックが終わったのは12時半。残念ながら、フィナーレのダンスは明日までの宿題になった。

 午後の部は1時過ぎから、徹底して動きを付けた。顧問Nが数日前から大筋の動きを付けてくれていたので、それをなぞりながら細部を徹底的につつく。目指したのは、大きくメリハリ付けて動くことと、動きのギャグを積み上げること。思いつきでうんこマーク入り扇子を二本作れとか、ゴミの袋をあと四つ準備しろとか、座って演技できる台を持ってこいとか、もう、勝手放題言いながら、動きを付けセリフを確認し表情や仕草にダメだしした。部員たち、泣き言言わず、文句も言わず、よく頑張った!

 さすがに、4時を過ぎると生徒もこちらも一杯一杯。あっちこっちで、あっ頭切れた!破裂した!の大合唱となった。5時を回って、もう、完全に限界突破。こうなると、感情の羽目が外れて、もう、失敗の連続、意味なき馬鹿笑い、調子乗りすぎのはしゃぎすぎ、超ハイテンションの異常空間が現出した。でも、まあ、集団演技の部分だから、それもいいかと、時に大声張り上げつつも大目に見て、なんとかかんとかやり過ごした。そして!6時10分!部活動終了時間ぴったりに最後のシーンを作り終えて、終了。全9時間の長丁場を完走したのだった。抱き合って喜ぶ部員たち!おいおい、まだ通しもできていないんだぜ。

 明日は午前中に歌を完成させつつ、演技に歌をスムーズにつなぐ作業。午後からはできれば3回通し稽古だ。衣装や道具、装置のチェックも済ませなくちゃならない。だから、菜の花座の県民芸術祭奨励賞授賞式は欠席。9時から6時、びっちりみっちり演劇漬けの一日が明日も待っている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

定年退職の迎え方

2008-03-20 21:49:02 | 暮らし

 今、とっても困ってる。送別会、永年勤続表彰などの寄せ来る波だ。そう、この3月一杯で定年退職だからね、皆さん祝ってくれたり、讃えてくれたりするんだ。もうすでに二つ済ませたけど、この後まだ三つも残ってる。やれやれだ。

 せっかく祝ってくれるのに、やれやれはないだろ!そう、そうなんたげどね、僕としては、実に困りものなんだ。何故って、過去を振り返らない男だからね。定年退職なんて、通過点の一つに過ぎないんだ。ああ、ここまでよく働いた、いろんな事があったなぁ、的感傷は、どうぁーいキライ!教職生活24年間も連続担任記録23年も、もうどうでもいいの。それより、目の前にある危機だよ。

 子どもミュージカルの初演!3月27日!目前だよ、迫ってるよ、時間ないよ、さっぱり稽古が進んでいないよってことで、焦ってる。ほんとヤバイ!なのに、送別会!ああ!!もう勘弁してよ。準備してくれてる人には悪いけど、本音をズバッと言わせてもらえば、送別会より稽古だぁ!稽古させてくれぇぇぇぇ!

 さらに、菜の花座次回公演『雲雀 はばたきて』の台本もある。これまた、直前でストップしたまま。今日は今日で高校演劇全国大会の提出書類を、生徒とともに8時までかかってやっとこさ仕上げたし。おっと、卒業したクラスの指導要録の記載なんて仕事も残ってる。ああ、ともかく時間が足りない。

 まあね、格好付けて、定年の最後の日まで全力で働くなんて計画立てるからこんなことになる、まっ、自業自得だね。定年直前て言うと、溜まった年休消化して職場に来たり来なかったみたいな人が多いみたいだけど、僕はそれすごく嫌だった。給料もらう以上はそれなりのことを最後までやりたい、たとえ勤務の最終日でも、勤務時間が終わるまでしっかり働いていたい。その仕事も片づけとか、掃除なんかじゃなくて、生徒とぎっちり関わっていたい。まっ、これが僕なりの働く美学、恥ずかしい~~!

 ともかく後ろは振り向かない。だから、送別会も永年勤続表彰もとんとありがたくない。だって、誰だって食うためには働く。仕事があって給料もらえれば、精一杯働くって当たり前のことじゃないか。定年まで働いたからって偉くもなければ、ご苦労さんでもないと思うんだ。できれば、まだまだ働きたい、自分の力を役立てたい、これが僕の偽らざる気持ちだ。定年なんかで祝って欲しくなんかない。

 こういうのってすごく生意気だよね。すなおに定年の思い出に浸りたい人には、きっと鼻持ちならない奴だって映るだろうね。まあ、その通り、いけ好かない奴なんだ、僕って人間は。どう思われても仕方ない、信念だから。人と違ったことを考える、人のやらないことをする、これをモットーに生きてきて60年だから。

 しつこく言うけど、最後の最後までぎっちり働きたい。できれば、送別会なんかに出ずに働きたい。でも、そうもいかんよなあ、ガキじゃないんだから。送別会開いてくれる人の立場もわかるし。心にもやもや抱えつつ、苦いビールを流し込むしかないか。

 その代わり、3月31日の永年勤続表彰はけっ飛ばしだ!米沢市松川小学校で子どもミュージカル『合い言葉は?もったいない!』の初公演だからね。おらおら、最後の最後まで働いてやる!ひひひひひ、ざまあ見ろ!って、なんか、ひねくれ過ぎてないか?これって老成とは明らかに逆方向だよね。美しく老成したいって願望もあるにはあんだけど、やっぱ、ダメだ!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コント台本公開!第2弾

2008-03-16 20:33:11 | 演劇

 二日ないし三日に一度の記事アップってなかなか大変なんだ。書くことも無くなってくるし、時間的にも相当きつい。特に、今は、次回菜の花座公演の台本のことで頭も身体も目一杯だから、新しい記事を書くゆとりがない。残念!

 かといって、何か書かないと気がもめるので、おお、そうだ!2月の生徒活動発表会のコント台本を公開していないではないか!と言うことで、諸般の事情により、今回はコント台本を載せて、堪忍してもらおうか。もっともこのコントあまり良い出来じゃないから、さらに気が引けるところあるんだけど、まあ、いいでしょ。場所ふさぎの一手です。気を悪くしたひと、ごめんなさい。

 なお、このコントはクレージーケンバンドの名作『タイガー&ドラゴン』を元に書いたものなので、コントの最後はすべて「俺の話を聞け」になっている。この部分では、当然、『タイガー&ドラゴン』のさびの部分が突如鳴り渡るわけなので、その辺もよろしく。

 コント『俺の話を聞け』

          舞台は後方に海が広がる公園。上手から下手へ腰高の堤防が連なり、その上は散歩通になっている。中央に幅広の階段。その横手にベンチがある。

第一話『電気海月』

          下手から男が二人言い争いながらやってくる。

男A    ちょっ、ちょっと待て!

男B    いや、今、忙しいから。

男A    ちょっと、ちょっとだけだ。

男B    今度、な、今度!

男A    今度、今度っていつ?

男B    次は、絶対。

          と、二人しだいに早足になりながら上手にはける。上手から、走りながら登場。逃げるBをAが追いかけている。

男A    待て、逃げるな!

男B    だから、今度、な、今度!

男A    ちょっと待て、俺の話を聞け!

男B    勘弁してくれよ!

          と、二人下手に走り去る。二人、下手からスケボーに乗って走りながら。

男A    5分でいい、5分でいいから。

男B    今日はダメ!今日は許して!!

          と、二人上手に去る。上手から今度は三輪車に乗って登場。下手に走りながら。

男A    2分!2分だけでいいから、俺の話を聞け!

男B    わかる、わかってるよ、いいたいことは!

          と、下手にはけ、男B下手土手上から、海に飛び込み泳ぎ始める。男Aも続いて飛び込み、後を追う。

男A    俺の、俺の、俺の話を聞けえ~~~~。

男B    あんたの、あんたの、あんたの話しはききたくない~~~~~。

          と、上手に泳ぎ去る。上手から、ボートを漕ぎながら、男Aのみ登場。下手に向かって必死で漕いでいく。

男A    金!貸した金!金返せえ~~~~~。

と、突然中央で電飾に輝く大電気海月が立ち上がり掴みかかる。男Aびっくりして、向きを変え、上手に向かってこぎ始める。

男A    金のことなどどうでもいいから。

男B    俺の話を聞け~~~~~。

第2話『恋人たちと乞食』

         恋人たち下手からやってくる。男はウキウキと嬉しそう。ようやく叶ったデートかな。女、気乗り薄。男、ベンチに座って。ハンカチを出して、隣の席に敷く。

男     ここ、ここ座って。

          女、男のハンカチでベンチをごしごしこすって後ろに捨て、隣りに座る。

男     俺、ここ、気に入ってんだ。ねっ、いいとこでしょ。

女     まあね。

男     ずっと。ずーっと、思ってたんだ。いつか、いつか、彼女ができたら、ここに来ようって。

女     ええーっ、あたし、あんたの彼女なの?

男     いやあ、まあ、みたいな、

女     みたい?

         船が上手からしずしずと進んでくる。

男     いえいえ、まあまあ、あっ、船!船だ!

         と、後ろの海を振り返るが、船は慌てて下手に逃げ去り、見あたらない。

女     どこにもいないじゃない。

男     おかしいなあ?通ることになってんだけど、ま、ま、ま、海って、すっげー、ロマンチックじゃない。世界の果てまでずーっと/

女     あっ、今、何時?

男     えっ、今、えーっと、今の時刻は、

女、携帯を取り出し。

女     やば!

         と、携帯をかける。

女     ああ、ごめ~ん!ちっとさあ、やぼ用できちゃってさあ。・・・うん、30分、いや、15分、15分で行くから。

         女、携帯をしまう。

男     俺、・・俺、・・こういうのって、初めてでさあ、

女     こういうのって?

男     だから、二人きりってーか、デートってーか。

女     へー、そう。

男     君は?

女     ねえねえ、なんか、お腹空かない?

男     えっ、腹、ああ、へったお腹。これ、

         と、懐から焼き芋を出す。

女     焼き芋~?

男     さっき待ってる時、そこで、

女     いいよ、

男     焼き芋、美味いじゃない。腹一杯にもなるし。

女     いいってば。

          女、無理矢理押しつけられた焼き芋を手にそっぽを向く。男、前を向いて、焼き芋を頬張りながら、

男     夢みたいだ。君と二人で、・・・・ずっとずっと空想してたんだ。こうやって二人で焼き芋かじりながら、・・・・おしゃべりして、・・・・俺、前から、君のこと見つめてたの、知ってる?・・・・俺、気弱いから、・・・・自信ないし、・・・・

          女、途中で携帯を取り出し、メールをチェック。焼き芋をベンチに置くと、下手に去る。乞食がやってきて、ベンチの焼き芋を見つけてベンチに腰掛け美味そうに食う。男は、女が乞食に入れ替わったことに気付かない。

男     でもさ、いつまでも、そんなんじゃダメだって、・・・・決心したんだ。君のこと、・・誘おうって。で、・で、・で、打ち明けようって。

          乞食、頷きながら芋を頬張る。男、そーっと、手を伸ばして、女(乞食)の手を探る。乞食、ちょっと、驚くが、手を握らせる。

男     あ、あ、あ、あ、あり、あり、ありがとう。・・俺、ほんと、ほんと初めてなんだ、こんなこと、・・・でもさ、いつまでも、そんなんじゃダメだって、・・・・決心したんだ。君と、君と、初めてのキッスを、・・・

          と、男、目をつぶって、乞食の方に唇を突き出す。乞食、焼き芋を口に入れたまま、男を見る。男、焼き芋とキッスする。焼き芋をかじり合った二人、顔を見合わせる。思わず、焼き芋を飲み込み、むせかえる二人。男、女がいなくなったことに気付いて、追いかける。と、突然、タイガー&ドラゴンのさびがかかる。

男     俺の、俺の、俺の話を聞けえ~~~~~!

第3話『ちんぴら』

          上手から少年が本を読みながら歩いて来る。上手から、いかにも風なちんぴらが二人(女が演ずる)肩で風を切りながらやってくる。

ちんぴらA  こんど奴らにあったら、ただじゃおかねえ。

ちんぴらB  ああ、そうともさ。

          少年、本に夢中でちんぴらとぶつかってしまう。

少年     あっ、ごめん、いえ、済みません。

          少年、脇に挟んでいた紙包みを落とすが、気付かない。ちんぴらBひろう。

ちんぴらA  おいおい、小僧。

少年     勘弁してください。つい、夢中になって、

          と、逃げる。ちんぴらB、立ちふさがって、

ちんぴらB  おい、兄ちゃん。

少年     わざとじゃないです。

ちんぴらA  そんなこたあ、わかってるよ。

少年     ごめんなさい。堪忍してください。

          と、すり抜けようとする。ちんぴらB、少年の腕を掴んで、

ちんぴらB  待ちなって。

少年     僕、金、まるっきり、ないです。ほら、

          と、ポケットから財布を出して、中を開けてみせる。

ちんぴらA  だれが、金寄こせって言った?

少年     いえ、じゃあ、これ。

          と、マンガ本を差し出す。

ちんぴらB  ばかやろう!

少年     すみません。

          と、今度は来ていたジャケット脱いで渡す。

ちんぴらA  この野郎、俺たちを誰だと思ってやがんだ。

少年     許してください。

          と、さらに、シャツを脱いで渡す。

ちんぴらB  だから、そんなもん、

少年     わかりました。

          と、ズボンを脱ぎ始める。

ちんぴらA  こら、よさねえか。

-->

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする