一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

タクシードライバーの窓から

2017-03-11 07:43:01 | 雑記


       3月11日の今日は3・11東日本震災から
       6年。

       いまだ12万人が避難しているという現実。
       親戚や知人もそのなかに居るし、
       もし避難解除が出てわが家に帰れたとしても
       仕事なし、わが家の畑で獲れた野菜も食べられない。
       こうした実態を聞くにつけ、どうしたら明日につな
       げる希望を持てるのか、途方にくれる。

       せめて話を聞き、一日もはやく平穏な日常がもどる
       ことを祈るばかりである。


       話は変わって、タクシーの話題。
       私はタクシーを利用する方ではないが、それでも
       年に何回か、旅先から帰ったときなど、迷いなく
       タクシーに乗らせてもらう。

       たった何日かでも旅先から帰ったせいか、人恋しく
       運転手さん相手にお天気の話や「景気はどお?」
       なんて、日頃話題にしないようなことをなぜか、
       しゃべってしまうのだ。
       
       でも、
       東京の夜、タクシーに乗ったことはめったない。
       新聞で、あるタクシードライバー歌人を知った。

       T(男性)さんは57歳。
       早大を出てサラリーマンになったが肌があわず、
       33歳のとき縁あってタクシー業界へ。
       ドライバーになって四半世紀。
       現在は認知症を患う母親と二人暮らし。独身。
  
       学生時代にはじめた短歌にはげまされ、深夜の東京
       の街を走らせている。

       「工事中の赤いポールが並ぶ道 
              われも並びぬ物の如くに」
       
       いつしかタクシーは新宿・歌舞伎町へ吸い込まれて
       いく。フロントガラスに残る雨粒がネオンを反射する。

       「冬近し客呼びをする街角の娘たち 
                  上着一枚羽織る」

       街角の女たちも寒さにこらえられず、コートを羽織る。

       「赤信号ふと見れば泣いてゐる隣
                 同じ放送聞いてゐたのか」
       
       車内で聴く深夜放送。
       隣の車の運転手も聴いていたのか、不思議な連帯感。

       「わが仕事この酔ひし人を安全に
                送り届けて忘れられること」

       タクシードライバーは一期一会の仕事。
       おそらく同じ客を乗せることはないだろう。
       そして送り届ければ完了の世界、
       忘れられて終わりの業務である。

       そしてとどめの一句
       「違和感を感じつつ貼る『がんばろう!東北』
                    もっとおれが頑張れ」

       支給されたステッカーを貼りつつ、多少の違和感を
       いだきつつ、
       そうだ、このオレが頑張らなくちゃ、という思い。

       なんだか、これからタクシーに乗るとき、虚心では
       乗れなくなってしまいそうである。