一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

みんなが

2017-03-12 06:50:26 | 雑記


        早朝の散歩のときに使った毛糸の手袋をそろそろ
        洗濯してしまおうかと思う季節になった。

        毛糸の手袋、というと子どもの頃を思い出す。

        小学4年生くらいだったか。

        仲良しのE子ちゃんが赤い毛糸で編んだ手袋をしてきた。
        町で評判のお店で買ったという。

        その頃は既製品の手袋を買うなんて発想はなく、
        たいがい母か姉かの手編みが普通だった。

        ところがE子ちゃんの手袋は赤いふわふわした毛糸で
        出来ていて、手作りの野暮ったさはなく、とても
        素敵だった。

        私は欲しくて欲しくてたまらず、E子ちゃんに借りて
        親に見せ、直談判におよんだ。

        「この手袋、みんな持ってるんだ。
         私も欲しい。だから買って!」

        「みんな、って誰?」
        「E子ちゃんにS江ちゃんに……」
        「それから?」
        「うーん、と……」

        私は云いよどんだ。
        だってE子ちゃんしか持っていないのだもの。

        このとき、自分のことながら、
        人間は追いつめられると嘘をつくものだ、ということが
        分かった。

        結局、その手袋は買ってもらったのか否か、
        覚えていないのである。

        ただ、自分が嘘をついて親をだまそうと思ったことしか
        記憶にないのだ。

        「みんなが持っているから買って」
        は子どもの常とう手段。

        今となっては、
        せいぜい1人か2人持っているだけで、「みんなが」という
        人間の心理もさることながら、
        そのことで大人(親)の気持ちを動かそうとする、子ども
        の知恵もおかしい。
        
        手袋くらい、好きなものをためらいなく買える大人に
        なって、かつてのあの切望感がなつかしく思いだされる。