一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

直耕の人

2011-09-22 22:07:09 | 自然



    実はこの田んぼを1人で耕していたのは80歳
    くらいのおじいさん。

    田起こしというか、冬中放っておいて固くな
    った土をクワで起こすのだ。
    おじいさんは来る日も来る日も(3月はまだ
    寒かった)1人で黙々と作業をしていた。

    田んぼはこの写真のずっと向こうまで数枚
    あって(ひとつが2~3畝くらい?)、
    えっ、1人でやるの?と半信半疑というか
    信じられないでいた。

    いつも通るたびに、あっまだやってる、と
    思って1ヵ月くらいたったろうか。
    1つ終わると次の田んぼ、それが終わると
    また別の田んぼと移って、とうとう全部
    やりおおせた。

    昔読んだ安藤昌益の本に
    「直耕(ちょっこう)の人尊し」
    というのがあった。
    安藤昌益は江戸時代に生きた東北の医師。
    つまり自然に学び、自然と共に生きること
    の素晴らしさを説き、直接耕す農民こそ
    尊いといっているのだ。
    
    さしずめ、このおじいさんは直耕の人と
    いうことか。
    毎日、直耕どころか何ら生産しないで
    虚業に生きる私などは大いに恥じなけれ
    ばならないと思った。

    ところでおじいさんの仕事はまだあった。
    田んぼに水を張り、耕運機が入るための
    準備をすること(作業名は分からない)。
    それをまた腰を曲げて1枚1枚、飽くこと
    なくやっていた。
   
    そしてとうとう、息子さんらしい(とい
    ってもキャップの下から白髪が出ていた
    から60代後半?)男性の出番となった。
    耕運機をつかって田んぼ全体をならすのは
    息子さんの役目なのだろう。
       
    さすがに機械は早い。2~3日で終わって
    しばらくご無沙汰していたらいつの間にか
    田植えも終わっていた。
    多分、それも田植え機でやったのだろう。

    これでおじいさんの家族構成が読めた。
    おそらく兼業農家というよりも、米作りは
    ほんの片手間で、息子一家は他に仕事が
    あるのだろう。

    最初、1人で農作業をするおじいさんを
    見て、
    (腰を曲げて地味な作業をするのがつら
     そうだったので)
    無理しなくていいのに、こんなに苦労し
    て何の娯しみがあるのか、と思ったり
    した。
    だが、これは私の不徳のいたすところ、
    大いに反省しなければならない。
    おじいさんにとっては、田んぼに出てクワ
    を握っている時がもっとも楽しく、それが
    生きる張りあいにもなっているのだろう。
   
    毎晩、今日も精一杯働いた!と満足して
    すぐに眠ることができたら本望にちがいな
    いのだ。その前に、晩酌の1杯くらいやる
    かも知れないけどね。

    現実には、おじいさんにもそれなりに気苦
    労があるかもしれないのだが、あれこれ思
    うと稲刈り時期が楽しみになった。    

    
    
    

案山子(かかし)が立ちました

2011-09-22 21:17:21 | 自然



     時々車で通る道沿いに田んぼがある。
     引っ越してきたとき身近に田んぼがあること
     に驚いたのだが、そこに先日案山子が立って
     いた。
     やっぱり実りの秋だものなあ、とひとしお
     感慨深かった。

     というのも、この田んぼが耕されはじめたの
     は震災直後のこと。
     3.11震災で故郷が未曾有の打撃をうけ、
     たくさんの犠牲者が出たことはもちろん、あの
     美しい田園が荒廃したことにショックをうけて
     いたからだ。

     そのとき思ったのは、
     これから田植えの準備がはじまるのだなあ、
     ということと、
     故郷では田植えもできない土地になってしま
     った、ということ。
     この2つの思いが交差して複雑な気持ちだった。

     あれから半年。
     故郷では叶わなかったけれど、ここではこうして
     稲が実りはじめた。
     やがて稲穂は頭を垂れるほど重くなって、一面
     真っ黄色な絨毯のようになるだろう。

     でも今どき、案山子?!
     その意外さが可笑しくて、用もないのにわざわざ
     車で通ったりした。

     でも今朝がた通ったら、田んぼの端っこに雀が
     群がって実り始めた稲穂をついばんでいまし
     た。
     少しは案山子に遠慮しているのでしょうか。