一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

ねずみの奥さん 続き篇

2011-02-11 20:09:19 | 読書

     それからまもなく、ねずみの奥さんには可愛
     い赤んぼがたくさん生まれ、せわしない明け
     暮れが続く。
     ようやく一段落したある日、旦那さんが留守
     のひまに久方ぶりにハトのところにいって
     みると、ハトはしばらく会わないうちにひどく
     憔悴して、まちかねたように奥さんを抱きし
     めキスをしながら、もう来てくれないかと
     思った、と繰り返す。

     巣に帰った奥さんは、先に帰り着いた旦那さ
     んにひどく叱られ、耳をかまれる。
     その晩、ねずみの奥さんは眼がさえて眠れな
     い。そして考えた。
     ハトはあんなところで閉じこめられているべ
     きではない!

     明るい静かな月の夜。奥さんは旦那さんと子
     供たちの眠る巣からそっと抜けだす。そして
     ハトのところに急ぐと、籠の戸の掛金に飛び
     つき、必死でかじりついて戸をあけることに
     成功した。

     籠から脱出したハトは、もはや奥さんには
     目もくれず、つばさを広げる勢いで奥さんを
     ひっくり返らせたなり、明け放しの窓から
     木々の彼方へと飛びさってゆく。

     分かったわ、あれが飛ぶってことなのね。
     でも、これからはもう誰も森や丘や雲の
     ことを語ってくれるひとはいない……。

     夜空を見上げた奥さんの目には星影がまた
     たく。
     するとそれは、奥さんにはそれほど遠くな
     い、不思議でもないように思えてくるのだ
     った。
     星影はハトに教わったのではない。
     未知の境にありながら、奥さんが自分自身
     の目で見つけたものなのだ。
     奥さんの胸にある確かなものがめばえる。
     誇りというか自信といったもの……。

     その晩ねずみの奥さんのしたことは、本人
     のほか誰ひとり知りません。家主のミス・
     ウイルキンソンすらも、どうしてハトが
     逃げだしたのか、ついに分からずじまいで
     した。

     ☆実は、物語はこれでお終いではない。
      次のように続くのだが、これが要るか
      要らないかは意見が別れるところだろう。

     (続)ねずみの奥さんはいまでは大変年を
     とって、走るのもむずかしくなってしまい
     ました。でも、その曾々孫たちからとても
     敬われています。
     このひとは見かけこそあたりまえですが、
     どこかしら他の仲間とはちがうのです。
     たぶんそれは、みんなの知らない何かを
     知っているからでしょう。

     ☆どうでしょう。子供向けだからこんな
     ことをつけ加えたのかも知れないが、
     わたしは無いほうが好き。
     その後どうなったか。それを読者に考え
     させ、余韻を持たせたほうがずっといい
     ような気がするのですが。