蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

異動辞令は音楽隊!

2023年07月28日 | 映画の感想

異動辞令は音楽隊!

地方の警察署のベテラン刑事成瀬(阿部寛)は、法令無視の荒っぽい捜査で知られ、同僚からも煙たがられていた。管内でアポ電強盗が多発し、成瀬は首謀者の自宅に押し掛けて追及するが、その際に暴行したことが告発され、広報課(音楽隊)に左遷される。成瀬本人はもちろん、音楽隊のメンバーはまるでやる気がなかったが・・・という話。

「きっとこういうストーリーになるんだろうな」と誰もが想定するとおりの筋立てで、平凡というかありきたりというか、という感じの展開。

それでも、飽きずに最後まで楽しめるのは、成瀬が閑職の極みのような職場に異動させられた後、立ち直っていく過程が丁寧に描かれているからだと感じた。

仕事にかまけて一人娘との約束を忘れて嫌われ、母親は認知症が悪化してまともな会話も成立しない。どん詰まりの私生活に加えて唯一のレーゾンデートルである刑事という職も奪われる。成瀬は、昔の職場に押しかけたり、音楽隊の活動を無視したりするが、もちろん何の成果も得られない。

役職定年になったサラリーマンとかが等しく味合うような寄る方なさを、成瀬はどう折り合いをつけて行ったのか?  平凡ながら、それなりに納得性があるプロセスだった。

 

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花束みたいな恋をした

2023年07月26日 | 映画の感想

花束みたいな恋をした

大学生の八谷絹(有村架純)と山音麦(菅田将暉)は2015年に明大前駅で知り合い、好きな作家など嗜好が一致したことから付き合い始め、やがて調布の多摩川近くのアパートで同棲する。イラストレータを目指していた麦が就職したころから2人の関係が悪化し始め・・・という話。

「怪物」を見て、脚本の坂元裕ニの他の作品も見てみたくなって借りてきた。

穂村弘、今村夏子、柴崎友香、滝口悠生、宝石の国、AKIRA、ゴールデンカムイ、押井守・・・絹と麦が好きな作家や作品。今時の若者がこんなもの読んだりするのか?と思ってしまった。なぜかというと、私の好みとピッタリと一致しているから。

しかし、本作は大ヒットしたらしいので、こうした嗜好に共感できる人もそれなりにいるのだろう。というか、自分ではマニアックと思っていたのに、実はメインストリームに過ぎなかっただけかも。

いやいや、自分の子供や会社の若者がこんな傾向の本やマンガを読んでいるのを見たことないぞ・・・

仕事に疲れ果てた麦が唯一の息抜きとしていたのがパズドラで、絹が(かつて2人が熱中していた)ゼルダの話を振っても反応しない場面とか、就職した麦が書店で小説に見向きもせず自己啓発書ばかりに興味を示す場面なんかが、自分がマニアックだと思っている(私のような)人にはたまらないのかもしれない。

京王は映画などのロケに協力的(というか最近まで京王以外の電鉄会社は駅などの鉄道施設内の撮影を許可しなかったらしい)なのは有名だが、本作でも舞台になるのは明大前と調布。登場人物が持っている本の書店カバーが調布が本拠の書店の特徴的なデザインだったりして、細かいところにも凝っているなあ、と思えた。2人が過ごす調布のアパートの内装や本棚もいい感じだった。

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もう別れてもいいですか

2023年07月26日 | 本の感想

もう別れてもいいですか(垣谷美雨 中央公論新社)

50代の原田澄子は、欠礼はがきで知人の夫が死んだと知って、おもわず「羨ましい」と呟いてしまうほど、夫が嫌いだった。2人の娘は独立して離婚に障害はないが、経済的な不安から踏み切れない。周囲は、暴力、浮気、浪費のいずれでもないのに離婚するのはおかしい、などというが・・・という話。

澄子の夫は家事は一切しないし、澄子が泊まりがけで旅行に行くのを簡単には許可しない。今時そんな夫婦いるの?などと思う。しかし、著者の作品はリサーチに基づいて書かれている感じがするし、何より共感を呼ばないとこんなに売れっ子にはなれないだろうから、本書を読んで「ああ、ウチと全く同じ」と思う妻が多いのかもしれない。

新聞の人生相談コーナーをよく読むのだが、今時信じられないような封建的?風習(嫁姑関係とか・・・今時親と同居してしていることすら珍しいような気がするのだが、そうでもないのだろうか)とかについての相談が結構多い。「いくらなんでもこれは釣りだろ」と思ってしまうのだが、全国紙でこの欄を担当する編集者は毎日投書の山と格闘しているのだろうから、きっと作り話は見破れるはずだ。だから多くは本当なのだろうし、人生相談のネタみたいな本書のような夫婦もたくさん実在するのかもしれない。

本書は、この上ないほどのハッピーエンドで、これを読んだら澄子と似たような立場の人は「ああ、私も今すぐ家を出て離婚しよう」と思ってしまうんじゃないか、と心配?になる。

澄子の夫と同じような立場(実は私もそうだが)の人の方こそ本書を読むべきかもしれない。「あなたの妻もきっとこんな風に思っていますよ」と知るために。

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殺しへのライン

2023年07月25日 | 本の感想

殺しへのライン(アンソニー・ホロヴィッツ 創元推理文庫)

元刑事のダニエル・ホーソーンを探偵役、著者と同名の作家アンソニーをワトソン役とするシリーズ第3弾。イギリスの南部のチャネル諸島のオルダニー島で文芸フェスが開かれて、(シリーズ第1作の)「メインテーマは殺人」の出版を控えたアンソニーとホーソーンも招待される。島では海底ケーブル施設の誘致をめぐって島民の対立が先鋭化しており・・・という話。

毎年ランキング総なめで、少なくとも日本では本格ミステリの第一人者という感じの著者。本格ミステリがあまり好みでない私も煽られて「ヨルガオ殺人事件」を読んで見たら、これが大傑作で感心して他のシリーズも読んでみた。

うーん、ヨルガオに比べると、ちょっと軽め?かな、という感じ。主人公のホーソーンもイヤな奴であまり共感できない。

「きっとこいつが犯人だな」と私が思った人(以下A)は。もちろん真犯人ではなかったのだが、著者がわざわざ作中でアンソニーに「私はAが犯人かと思った」みたいなことを言わせて、読者に対し「ほら、あんたも引っかかったでしょ?」と嘲っているような感じ(考えすぎ?)がしたのもイヤだった。

これも物語の中で述べられているのだが、シリーズの1作目の原題は「The word is Murder」、2作目の原題は「The sentence is death」、本作は「A line to kill」で文法つながり?になっているそうだ。おお、凝っているねえ、という感じ(特に2作目がいい)。邦題はそれを全く無視しているのが残念かな。

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ティファニーで朝食を(映画)

2023年07月25日 | 映画の感想

ティファニーで朝食を(映画)

誰もが振り向くような美女のホリー・ゴライトリー(オードリ・ヘップバーン)は、ニューヨークで寸借詐欺や刑務所にいるマフィアのメッセンジャーをしては、取り巻きと部屋でパーティを開く毎日だった。ホリーと同じアパートに暮らす作家の卵のポール(ジョージ・ペパード)にはパトロンの2E(パトリシア・ニール)がいて、それが筆が進まない原因になっていた。ポールは次第にホリーに惹かれていくが、ホリーには生い立ちに秘密があり・・・という話。

昔、原作を読んでいたので、「あれ?こんな話だったっけ?」と戸惑ってしまった。というか、結局原作とは全く違う話で、有体にいうとヘップバーンのプロモーションフィルムという感じ。筋立て云々を語るのは野暮というものなのだろう。しかし、「ティファニーで朝食を」といえば、まずは映画を思い浮かべる人が今となっては多いはずで、カポーティは怒ったりしなかったのかな??

ヘップバーンを始めとして登場人物のほとんどが、ずーっとタバコを吸っているのが印象的だった。あとポールの愛人2Eが素敵だった。

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