蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

羊飼いの想い

2023年07月02日 | 本の感想

羊飼いの想い(ジェイムズ・リーバンクス 早川書房)

イギリス湖水地方において酪農業を営む著者のエッセイ第2弾。

前作は、羊を中心とした酪農家の蘊蓄がとても興味深かった。同じような内容を期待したのだが、本作は、大型化・効率化を進めようとする農業政策や化学肥料の多用に対する批判が中心で、意地悪く言うと著者のぼやきのように聞こえなくもなかった。

同じ作物を作り続けると地中の栄養分が不足する。別の作物を栽培して輪作する、という方法はあるものの、効率が悪かった。これを画期的に解決したのが窒素化合物などの化学肥料で、世界人口の爆発的増加の要因となったという。しかし、化学肥料も使い続けると地味が痩せてしまう。

本書で著者も述べているが、除草剤の効果はものすごくて、雑草を除くという重労働から農家を解放してくれることは間違いない。しかし、一方でこうした化学物質を多用すること地中の微生物が死滅したりして、農地の多様性、豊かさが失われてしまう。

 

農業に限らず、新技術とその副作用のせめぎ合いは、どんな世界にもある。副作用が行きすぎて元に戻れなくなる限界点はどこなのかは、新しい技術だけに誰にもわからない。革新的イノベーションから生まれる効率性・経済性の追求をどこで止めたらいいのか、永遠の課題だ。

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見果てぬ王道

2023年07月02日 | 本の感想

見果てぬ王道(川越宗一 文藝春秋)

孫文の財政的スポンサーで日活の創始者:梅屋庄吉の生涯を中国の革命情勢とともに描く。

本作の表向きの主役は庄吉や孫文、あるいは宮崎寅蔵といった革命の主導者たちなのだが、彼らはどこか間が抜けていて、女癖が悪く、日常生活においては無能力者に近い。そんな男たちを支えていたのは、庄吉の母ノブ、香港におけるパートナー:登米、妻のトク、孫文の(2人目の)妻:宋慶齢たちだった、というのが本書のテーマかな?と思われた。

特に庄吉に姓をつけさせようと豚を自ら捌いてしまうトクが印象深かった。

孫文の革命は何回も失敗して、そのたび彼は諸国をさすらうのだけど、庄吉や慶齢の実家:宋家は一貫して彼を支える。それだけ人間的魅力に溢れていたのか、それとも革命のシンボルを担える人が彼しかいなかったのかは本書からはよくわからない。

庄吉は、写真館や映画という当時としては怪しげな事業を営む新興起業家で、宋家は出版業から財をなしたとはいえ、やっぱり成金の類だろう。そんな頼りなさげな金主がメインスポンサーなのに、世界最大級の大国の革命が一度は成就してしまった、というのが、本書を読んでの一番の驚きだった。

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