火を熾す(ジャック・ロンドン スイッチ・パブリッシュイング)
表題作は、厳寒期の北米の平原?で道に迷った男が、動かなくなった手を暖めるために火を熾そうとする話。と書くと「それのどこが面白いの?」と思われそうだが、実際読んでみると「それで、どうなるの?」感が凄すぎて、途中で止めることは難しい。それでちょうど良い長さで終わるのも、またいい。
他の収録作は、表題作と似たリアル系の話(ボクサーを描いた「メキシコ人」「一枚のステーキ」、「火を熾す」と似たようなシチュエーションの「生への執着」)は、どれも次の展開が気になって仕方ない緊迫感に満ちていた。いわゆるページーターナーというやつで、100年前に書かれたとはとても思えないほどみずみずしさもある。特に「生への執着」がよかった。
サメの話の「水の子」、棄老の話の「生の柩」、アイディアストーリーの「影と闘え」、夜になると中世人になる男の話の「世界の若かったとき」は、幻想的な雰囲気でリアル系の作品とははっきり違う作風だが、どれも楽しめた。