蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

火を熾す

2023年07月28日 | 本の感想

火を熾す(ジャック・ロンドン スイッチ・パブリッシュイング)

表題作は、厳寒期の北米の平原?で道に迷った男が、動かなくなった手を暖めるために火を熾そうとする話。と書くと「それのどこが面白いの?」と思われそうだが、実際読んでみると「それで、どうなるの?」感が凄すぎて、途中で止めることは難しい。それでちょうど良い長さで終わるのも、またいい。

他の収録作は、表題作と似たリアル系の話(ボクサーを描いた「メキシコ人」「一枚のステーキ」、「火を熾す」と似たようなシチュエーションの「生への執着」)は、どれも次の展開が気になって仕方ない緊迫感に満ちていた。いわゆるページーターナーというやつで、100年前に書かれたとはとても思えないほどみずみずしさもある。特に「生への執着」がよかった。

サメの話の「水の子」、棄老の話の「生の柩」、アイディアストーリーの「影と闘え」、夜になると中世人になる男の話の「世界の若かったとき」は、幻想的な雰囲気でリアル系の作品とははっきり違う作風だが、どれも楽しめた。

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異動辞令は音楽隊!

2023年07月28日 | 映画の感想

異動辞令は音楽隊!

地方の警察署のベテラン刑事成瀬(阿部寛)は、法令無視の荒っぽい捜査で知られ、同僚からも煙たがられていた。管内でアポ電強盗が多発し、成瀬は首謀者の自宅に押し掛けて追及するが、その際に暴行したことが告発され、広報課(音楽隊)に左遷される。成瀬本人はもちろん、音楽隊のメンバーはまるでやる気がなかったが・・・という話。

「きっとこういうストーリーになるんだろうな」と誰もが想定するとおりの筋立てで、平凡というかありきたりというか、という感じの展開。

それでも、飽きずに最後まで楽しめるのは、成瀬が閑職の極みのような職場に異動させられた後、立ち直っていく過程が丁寧に描かれているからだと感じた。

仕事にかまけて一人娘との約束を忘れて嫌われ、母親は認知症が悪化してまともな会話も成立しない。どん詰まりの私生活に加えて唯一のレーゾンデートルである刑事という職も奪われる。成瀬は、昔の職場に押しかけたり、音楽隊の活動を無視したりするが、もちろん何の成果も得られない。

役職定年になったサラリーマンとかが等しく味合うような寄る方なさを、成瀬はどう折り合いをつけて行ったのか?  平凡ながら、それなりに納得性があるプロセスだった。

 

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