蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

櫛引道守

2015年09月29日 | 本の感想
櫛引道守(くしひきちもり)(木内昇 集英社)

江戸末期、木曽の山中の宿場町:藪原の櫛引職人の娘:登瀬が主人公。登瀬の父親は知る人ぞ知る櫛引の名人。登瀬は子供の頃から父の技術に憧れ、櫛引の手伝いをする。父も娘の才能を見出して櫛の問屋が紹介した縁談を断ってまで櫛引の修行をさせる。もう一人、父の技量にほれ込んだ男:実幸も父に弟子入りする。実幸は登瀬以上に櫛引の天分があり、かつ商才もあって世渡り上手。そんな実幸に登瀬は職人としての嫉妬を燃やすが、実幸の方は登瀬を嫁にもらいたいと言い出す・・・という話に、登瀬と、登瀬の弟の友人:源次との恋の話が絡む。

田舎の櫛引職人一家の話という極めて地味な題材なのに、家族の形というメインテーマに、職人気質、技の伝承、淡い恋さらには幕末の政治情勢までからめて、読み始めたら本を置くことができないほど、面白かった。この上ないハッピーエンドで終わるラストも、不自然さがなく気分よく読み終えることができた。

1年に1回くらい「小説っていいなあ」と思える本があるが、本作はまさにそれ。


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