蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

陽炎ノ辻

2013年02月07日 | 本の感想
陽炎ノ辻(佐伯泰英 双葉文庫)

佐伯さんってミステリ作家だったのに、いつのまにか時代小説を書くようになっていたのね・・・・なんて思っていたら、あれよあれよという間に大人気作家に。次々に新刊が刊行されるその生産性もすごい。

もともと、チャンバラっぽい?時代小説は、藤沢周平さんのもの以外ほとんど読んだことがなかったのだけれど、
佐伯さんの新刊が出る頃になると書店に「まだ出ないのか」と問い合わせるおじさんが続出するという噂を聞いたり、
会社の隣の席の(普段は真面目な)人が仕事中にこっそり新刊を読んでいたりするのを見たりすると、「そんなに面白いのか」なんて考えてしまった。それでいつも行く図書館にあったので読んでみた。

ストーリー展開が早くて、主人公の坂崎磐音は、悩みも迷いもなくて闘えば必ず勝つ。
リーダビリティは高いし、売りゆきがいいのも十分に納得できたが、次の一冊が読みたいかというとそれほどもない、といったところだった。

蛇足  このシリーズだけで50冊近く出版されているそうだが、本書だけでも磐音は(ちゃんと数えてないけど)10人くらいは斬り殺しているので、このペースで進展しているとすると、もう500人くらいは殺していることになる。まるっきり江戸を徘徊する殺人鬼だ(なんてことをいうのは野暮だけど)。

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裏切りのサーカス

2013年02月06日 | 映画の感想
裏切りのサーカス

英国諜報部の幹部だったスマイリーは引退を余儀なくされていたが、諜報部の内部に潜むモグラ(二重スパイ)を探り出す特命を受けて活動を始める。モグラの背後にはソ連の大物スパイ:カーラの姿が見え隠れし、スマイリーの妻:アンの浮気も絡んで捜査は難航する・・・という話。

原作を読んでいないと、映画を一回見ただけではストーリーを理解するのは難しいと思うが、誰がモグラなのかは、配役をだけで分かってしまう。というか、この配役だとこの人がモグラのはずだよね、という人がやっぱりモグラなのはどうよ、と思ってしまった。

なので、筋を追ってサスペンスを楽しむというより、冷戦時代の沈滞ムードのイギリス社会や風俗などを懐かしむ映画なのかなあ、と思えた。アクションシーンは皆無だし落ち着いた地味な画面なので若い人向きじゃないよね。
そういった意味でも、また、単なるスパイ映画としても成功していると思う。

原作を読んだといっても、もう数十年前なので、内容はほとんど忘れていた。私の記憶では、スマイリーはイギリス諜報部の守護神的存在で、モグラ以外の幹部たちも忠誠心にあふれた優秀なスパイ、という感じだった。
ところが、映画では終盤に至って、諜報部の幹部たちは多かれ少なかれソ連と癒着(そうでもしないと情報がとれない)していることがわかり、スマイリーは祖国のために頑張ったというよりも、諜報部の内部抗争に勝つことを目的としていて、ついにはそれを果たした、みたいな感じになっていた(←これ、私の勝手な解釈なので間違っているかも)ので、もう一度原作を読み直してみようかな、と思った。

映画でも最終盤に出てきた場面だが、原作で印象的だった部分を引用する。
***
「しかし、きみには一つ弱点がある―アンだ。迷いのない男の唯一の迷いだ。おれがアンの愛人であるという噂があちこちに広がったら、いざという時にきみの判断がくもるだろう、と彼は考えた」
迷い! ほんとうにそれが愛に対するカーラの呼び名なのか?そしてビルの?

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学問

2013年02月06日 | 本の感想
学問 山田詠美(新潮文庫)

後半になるまで、なんでタイトルが「学問」なのかわからなかった。
でも、謎解きされてみると、なるほど、不可思議なものを自分の経験や知見で謎解きして発展させていくことこそ「学問」なのかもしれないなあ、字義通り、と思った。

心太(と書いてトコロテンと読むのを初めて知った。ワープロでも変換するので驚いた)という登場人物は、貧乏な片親家庭に育ち、見かけは粗雑なガキ大将なのに、周囲の誰をも魅了してやまない。
その心太にひきつけられるように集まった3人(仁美、千穂、無量)の小学校時代から高校生くらいまでの結びつきを主筋にして、仁美の「学問」の進展具合を描いている。

心太を含む四人の、友情ともちょっと違うような、もっと血縁関係に近いような、固い結びつきがとても羨ましく思えたし、物語の中で、非常に魅力的な人物という設定の心太のふるまいやセリフは、確かにカッコよくて、ちょっとハードボイルドで、こんな人が近くにいたら、それだけで嬉しくなってしまいそうな気がした。
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