蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

私を知らないで

2013年02月26日 | 本の感想
私を知らないで(白河三兎 集英社文庫)

本書の主人公「キヨコ」はダントツの美少女なのに、貧困家庭(両親は離婚し残った父も行方不明、両親が残した借金と祖母とともに古ぼけた家で暮らしている)であることを理由として中学校のクラスで完全に無視されている。転校生の(語り手の)「僕」ともう一人の転校生は「キヨコ」の秘密をさぐろうとして・・・という話。

このブログでも繰り返し書いていることだけれども、私は貧乏くさい物語が大好き。なので、貧困の極みにいるのに誇り高く、中学生のくせに生きたおカネの使い方を知り尽くしている「キヨコ」に関する描写が続く前半部分はとても楽しく読めた。このあたりでは、「僕」の醒めたハードボイルドぶりや中学校のクラスの力学の解説もよかったと思う。

ややサスペンスフルなムードの中盤もまあまあ良かったが、ラストの決着の仕方はちょっと安易というか予定調和的というか、「せっかくここまで良かったのに、それはないでしょ」という感じがした。
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黒王妃

2013年02月26日 | 本の感想
黒王妃(佐藤賢一 講談社)

16世紀後半、ヴァロワ朝フランスを実質的に支配したカトリーヌ・ドゥ・メディシスを主人公とした歴史もの。
カトリーヌはメディチ家出身で、フランス王アンリ2世に嫁ぐが、アンリ2世には(母親的存在の)愛人がいた。アンリ2世は事故で死亡し、長男が王となるが、これも狩りの途中の怪我が原因で若死にする。次は次男を王にするが幼年のためカトリーヌが摂政的存在となる。
そうした家族的な不幸せもさることながら、当時のフランス国内は、宗教改革の影響で新旧両派が内戦を繰り広げていてその争いにカトリーヌは翻弄され続ける・・・という話。

アンリ2世が死んで(これ以降カトリーヌは喪服調の黒衣ばかり着るようになったのが「黒王妃」の由来)息子たちを王にすえて苦闘するカトリーヌを描いた普通の叙述パートと、
愛人と夫の愛を争い、勝つことができず、やがてアンリ2世が騎馬試合で死亡するまでのカトリーヌの独白調のパートが、交互に記述される。中心は後者の独白部分でクライマックスは騎馬試合でアンリ2世が致命傷を負うシーン。

今、40歳代以上くらいの人は、「ノストラダムスの大予言」というベストセラーをご存じかと思う。この本の中でノストラダムスの予言が的中した例として、このアンリ2世の死亡事故がかなり詳しく取り上げられていた。このため、歴史上、それほどたいした事件とはいえないアンリ2世の死の経緯を、私は今でもよく覚えていた。
もしかして、私と同世代の著者も「ノストラダムスの大予言」を読んで、アンリ2世の死が他のイベントに比べてより印象強く記憶していたのではないか?なんて考えてしまった。

アンリ2世の死の後に、(普通の叙述部分であるパートに戻って)「聖バルテルミーの虐殺」が描写されて(そして、実質的に虐殺を命じたカトリーヌの動機は実はアンリ2世の死の原因をつくった人物を殺すためではなかったのか・・・という仄めかしがあって)本書は終わるのだが、歴史上、カトリーヌはこの後病死し、次男の後を継いだ三男も暗殺されてヴァロワ朝は終わってしまう。
カトリーヌは息子たちを支えて、あの手この手でなんとかアンリ2世が残した国家と家族を守ろうとするが、両方ともにかなえることはできなかった。
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アルゴ

2013年02月26日 | 映画の感想
アルゴ

朝、通勤電車の中で「キネマの神様」を読み始めたら、とても面白く、映画館で映画が見たくなった。単純ですね。

それで、カレンダーを見るとちょうど20日(2月20日)で、確か20日は自宅近所のシネコンが1000円均一だったことと、水曜日で会社が早帰り(残業の多い会社なので、水曜日は強制的に早く終業しようということになっている)だったことを思い出した。
早速そのシネコンのスケジュールを見ると、19:00から「アルゴ」をやっていたのでこれを見ることにした。
実は映画館で映画をみるのは10年ぶりくらい。昔に比べると椅子が広々しているなーと感じた。料金が安い日ということもあって、封切から相当な期日が経過している映画だけれどお客さんの入りはまあまあだった。

イラク革命下のテヘラン:アメリカ大使館へ暴徒が乱入する。ビザ担当?の6人は裏口から逃げ出してカナダ大使を頼り、その私邸に匿われる。
イランの革命防衛隊はアメリカ人狩りを行っていて、6人が見つかるのも時間の問題と思われた。国務省は救出作成として、CIAの人質奪還の専門家:メンデスの、6人をSF映画のロケハンにテヘランを訪れたカナダ人に偽装させて民間機で出国させるというアイディアを採用し、メンデスはテヘランへ派遣される、という、実話に基づく話。

そういうストーリーを丁寧に説明する前半部分はややもたつき気味ではあるし、6人は無事出国できたという結末を見る方はあらかじめ知っているのだけれども、カナダ大使私邸を出て出国を果たすまでの一連のシーンの迫力と緊迫感、スピード感は(前半のもたつき感はむしろ、この後半をよりビビットにするための「タメ」のようなものだったのかも、と思わせるほど)相当なもので、搭乗した民間機がイラン領空を出たあたりは6人とメンデスにハイタッチをしたい気分になった。映画館全体にも、そんな高揚しつつも安堵したムードが(「キネマの神様」の影響だと思うが)漂っているような気がして、映画館にも「ライブ感」みたいものがあるんだなあと、勝手に思い込んだ。

国務省は、6人を救い出そうと、自転車脱出作成とか英語教師偽装作戦とかをCIAといっしょに懸命に考える。映画のロケハン作戦に方針が決まった後も、本当に映画を作るくらいの予算を事前活動につぎこんでメンデスを支援する。
この6人は公務員ではあるが、マスコミが事前に事態を知っていたわけでもないのに、ここまでリソースと情熱を投入するのだから、アメリカの在外の自国民に対する保護の責任感はすごいなーと思った。

映画の最後に6人が救出されてすぐ、マスコミに大々的に取上げられる場面が出てくる。「そんなことして大丈夫だったのか」なんて心配になってしまった。今だったらアメリカ国内でテロにあっちゃいそうな気がするけど、当時はそういう懸念は薄かったのだろう。
心配になっといえば、6人を空港で取り逃がした人たち(手形的書類がないのに関門を通してしまった人とか、尋問をした革命防衛隊の人とか)だ。この後、彼らに過酷な運命が待っていたのではないかと懸念される。特に人のよさそうな防衛隊のリーダ格の人が心配だ。
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