蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

キネマの神様

2013年02月25日 | 本の感想
キネマの神様(原田マハ 文春文庫)
都心のビル開発会社でシネコン導入担当の課長だった主人公は、社内でパージにあって辞職する。主人公の父親は借金をしてはギャンブルにつぎ込むろくでなしの人生を歩んできたが、ギャンブルと並んで熱中していたのが映画。主人公は父親の入院中に父親が昔見た映画の感想を書き留めているメモを見つけてよみふける。
映画の評論雑誌に再就職した主人公は、父親の退院後、ギャンブル依存症から脱却させようと、映画の感想をブログに投稿することを薦める。やがて父親のブログが意外な方面からの反響を呼んで・・・という話。

正直言って、ストーリーは安直というかご都合主義というか、「そんなうまくいくわけないでしょ」という感じなのだけど、本書の魅力は筋書の中にはなくて、「(映画館で見る)映画ってこんなに面白いんだよ」という主張の方にに凝縮されている。
「ニューシネマバラダイス」や「フィールドオブドリームス」「硫黄島からの手紙」「時をかける少女」などの映画評自体も興味深く読めるが、いろいろな箇所にちりばめられた映画への愛情表現がとてもいい。
冒頭の
「観るたびに思う。映画は旅なのだと。幕開けとともに一瞬にして観るものを別世界へと連れ出してしまう。名画とはそういうものではないか。そしてエンドロールは旅の終着駅。」
なんて部分ですでにノックアウト気味で、さっそく10年ぶりくらいに映画館へ行きたくなってしまった。(で、実際行った)

文庫の解説を読んで、紹介されていた著者のHPに書かれたプロフィールを読んでみたのだが、小説よりも奇なり、とでもいうのか、こっちを小説にした方が面白いんじゃないかと思うくらいの激しいキャリアで、驚いた。あと、原田宗典さんの妹さんだというのもこの時知った。お兄さんのエッセイにもよく登場する「セールスマンだった父」のモチーフが本書でも用いられている。最近お兄さんの方はあまり作品をみかけないような気がするので、「楽園のカンヴァス」で大ブレイクの予感がする妹の方が追い越してしまうかもしれない。
コメント
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