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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

大いなる陰謀

2008年11月17日 | 映画の感想
大いなる陰謀

政治学の大学教授(レッドフォード)は、優秀と見込んだ生徒が授業に出てこなくなったので、呼び出して説教をする。
その中で、教授はかつてのクラスにいた優等生のアフリカ系とヒスパニック系の学生が大学院に行くためにアフガン―イラク戦争に志願(志願して満期除隊すると学費なしで大学院に復学できるというプログラムがあるらしい)したことを引き合いに出して説得する。

教授のクラスの優等生たちは、秘密作戦に駆り出されてヘリから落ち、敵中に取り残されて、やがて射殺される。
一方、この秘密作戦を立案した次期大統領候補の上院議員は、テレビ局の老記者にこの作戦のことを打ち明けて、スクープをあげよう、と言う。当然、老記者は上院議員の話にきな臭さを感じるが・・・

原題は「Lions on Lambs」。
映画の中の解説によると、第一次大戦のときに、勇敢なイギリス兵が無能な指揮官に率いられている様をドイツ軍がからかったものらしい。「羊に率いられた獅子」といったところか。

この作品はレッドフォードの製作・監督で、アメリカの政権党を強く批判した内容になっている。
羊というのが、現政権というわけである。ほとんど非政権党のPRビデオみたいな内容で、娯楽性は無くて、政治臭さだけが残った作品。

それにしても製作・監督のレッドフォードが、一番いい人の役というのはどーなんでしょう。むしろ老獪な上院議員、の役の方がはまってるような気もするが・・・

沈黙/アビシニアン 

2008年11月09日 | 本の感想
沈黙/アビシニアン (古川日出男 角川文庫)

二つの小説を合本にしたもの。二つの小説に多少の連関はあるが、基本的には独立した小説。

「ルコ」という、カリブ海の島発祥の音楽がヨーロッパ、中国を経て日本の大瀧家の地下に眠るレコードコレクションに納められている。
大瀧家の遠縁の主人公は、大瀧家に下宿することになって、このコレクションに添えられたメモを読んで「ルコ」の来歴をたどる。
というのが、「沈黙」の粗筋だが、ストーリーはあってなきが如しで、意地悪い言い方をすると著者のイメージを思いつくまま書きなぐったような小説。

なので、著者のイマジネーションに同調できる部分(私の場合だと、冒頭の「獰猛な舌」の章と、「ルコ」がカリブ海の島で生まれるあたり)は、面白く読めるが、そうでない部分は(やたらと長いこともあって)なかなかついていけない。

ただ、この小説は世間の評判は概ね上々のようなので、多くの人が著者に共感できているはずで、私の理解力が不足しているのだろう。

「アビシニアン」は、公園で猫とホームレス生活をしていた少女と、その少女を拾ったレストランオーナーの女性、そのレストランの常連の大学生の話。こちらも、筋らしい筋はないし、内容に共感できる部分は(「沈黙」とはちがって)ほとんどない。
迷宮的な構成を、もう少しどうにかしてもらわないと、正直言って読み進むのがしんどい。

アメリカン ギャングスター

2008年11月08日 | 映画の感想
アメリカン ギャングスター

イタリア系とかアイルランド系じゃない、純?アメリカ人がひきいたギャング組織の実話に基づく話。

ベトナム戦争時代、主人公は、中越国境あたりの麻薬原産地のボスとアメリカ軍人にあたりをつけ、ベトナムからアメリカへ向かう軍用便を利用して高純度の麻薬の密輸に成功し、斯界の一大勢力にのしあがる。

一方、腐敗した警察の革新を図る刑事があらわれ、主人公の麻薬流通ルートを執拗に捜査する。やがて密輸ルートを把握し、主人公とそのファミリーは捕縛される。

ギャング役がデンゼル・ワシントンで、刑事役がラッセル・クロウなので、役どころと役者のイメージが正反対という感じ。
なので、ギャングが妙にいい人に見えるし、刑事は、組織を刷新するといっても、結局警察内部の勢力争いに利用されているだけなのでは?、みたいに思えてしまった。

Sweet Rain 死神の精度

2008年11月03日 | 映画の感想
Sweet Rain 死神の精度

原作のうち3編(「死神の精度」「死神と藤田」「死神対老女」)を取り上げて映画化したもの。

このブログでも書いたように、原作を読んだ時は「死神と藤田」が、もっとも面白いと思えた作品だった。
この映画でも「死神と藤田」はとりあげられており、ほぼ原作に忠実に映像化されている。しかし小説のラストで感じたような意外感、小説中の死神の設定を著者自身が逆手にとったような、ひとひねり感が全く感じられなくて残念だった(もっともこれはすでに筋を知っていたからかもしれないが)。
原作の藤田は、ハードボイルドなやくざなのだが、映画は、キャストのせいか(金城武の二役にしたら良かったのに!と思った)、そうは見えなかった。

で、「死神の精度」(これは逆に原作を読んでないとオチが強引すぎる印象があると思う)「死神と藤田」と見ていくうち、正直いって失望を感じたが、最後の「死神と老女」はよかった。
富司純子のセリフ回しは、彼女だけ舞台に立っているみたいで(というか、金城武をはじめ、他の人がセリフ棒読みみたいな人が多いので余計にそう見えるのかも。ただし、金城武は、原作の死神のイメージにぴったりで、日本語の微妙なニュアンスやイディオムに慣れていないという雰囲気がよく感じられた。棒読み風はワザとなのか?)、少々違和感があるが、正統派やくざ映画のキメゼリフのようなカタルシスを感じさせてくれる熱演だった。

ラストシーンの青空もとても印象的。この映画の良さは、最後まで見て初めて感じられるものだと思った。
セットが気恥ずかしさを感じさせるほどピカピカだったのと、コンピュータグラフィックスがひどかったのが、ちょっと残念。

奉教人の死

2008年11月02日 | 本の感想
奉教人の死(芥川龍之介 新潮文庫)

「切支丹もの」と呼ばれる、戦国時代後半の日本におけるキリスト教信者にまつわる作品を集めた短編集。

著者の、キリスト教信者や牧師、あるいは教会組織といったものに対する視線は、ずいぶん醒めているというか、冷たいものだなあ、と感じた。
切支丹の秘めた信仰とか殉教について同情的な物語だという勝手な先入観があったので、意外だった。

表題作は、主人公の信者をこそ美しく描いているものの、教会は冷酷な組織として登場する。
「黒衣聖母」とか「神神の微笑」は、信仰をいかがわしいものとして扱っているような気がするし、「おぎん」、「おしの」、(細川ガラシャを嘲笑的な視点で描いた)「糸女覚え書」に到ると、もはや反キリスト教といっていいほどの内容だった(と私は思った)。

「報恩記」は牧師こそ登場するけれど、本筋にキリスト教はあまり絡んでいなくて、3者の異なる視点から事件を描写する、「藪の中」みたいな構成になっている。ただし、「藪の中」とは違って、謎解きはとても明快で、上質のミステリとも言えると思う。