蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

かまさん

2018年06月09日 | 本の感想
かまさん(門井 慶喜 祥伝社)

鳥羽伏見あたりから函館での降伏までの榎本武揚の活躍を描く。タイトルは武揚の名前が釜次郎であることから来ている。

「活躍」と書いたけれど、本書を読む限り、武揚の打ち手はことごとく裏目に出ている。
幕府海軍の残存艦群を台風シーズンに函館に向けて出発させて一部の艦を失い、
主力艦の開陽を軍事上の必要性が薄い江差沖に派遣して座礁・沈没させ、
政権幹部を人気投票で選んだ結果、経験豊富な指揮官を失い、
どう見ても無茶な宮古島海戦をしかけて惨敗し、戦線縮小の時期を読み間違えて政府軍を函館近郊まで引き入れ・・・
また、武揚は、登場する多くのシーンで飲酒している。

著者は、武揚に大きな好意を持ってその生涯を描いているようには思えるものの、作品上の武揚は、どうも、あまり立派な人だったとは思えんなあ。。。

本書で描かれる政府軍は自分たちが寄せ集めで士気や経験が乏しいことをよく知っていて十分な戦力や物資が整わない限り積極的に戦おうとしない。
それは作戦技術上、正しいことだろうし、この後の(西南戦争などの)内戦においても顕著にみられる傾向だ。しかし、この政府軍の系譜を継いだ日本陸軍は、勝ちを重ねるうちにそうした特質とは正反対の方針をもってしまうことになる。
歴史の皮肉だなあ、といつも思う。

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