蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

黒字亡国

2006年02月06日 | 本の感想
「黒字亡国」(三國陽夫 文春新書)

①日本経済の成長の主因は依然としてアメリカへの輸出であり、その決済はドルで行われており、日本が貯めこんだドルはアメリカ金融市場で運用されている。
アメリカでは日本が運用するドルを基に信用が想像され景気が良くなるが、日本では円高を恐れて常時円売り―ドル買いの介入を続けているために国内での信用創造が進まなくなってしまっている。
だからアメリカの景気が良くなるとそのおこぼれで日本経済は良化したように思えるが本質的な回復には至らない。これが、著者のいう「通貨植民地」の構図であり、かつてのインド―英国間の関係に似ているという。

②では、なぜドル資産を円や金、他の通貨に換金しないか、というと、それはドル資産があまりに巨大であるため、一気にドル売りが始まるととんでもない円高になってしまい、輸出産業が自らの首を絞めることになることをわかっているから、(換金が)起こらないという。

③この「通貨植民地」から脱け出して日本経済が自律的な回復を取戻す方法として著者があげるのは、内需の喚起、対内投資の増加等である。

私が疑問に思ったのは②である。輸出者はいつでも自由にドルを売れるわけで、本当に円高になるという予測を持っているのなら我先にとドルを売るはずである。それを政府がすべて買い取ることはできないのだから、今すぐ超円高が実現しそうである。
輸出業者がドルを売らないのは、価値の保存手段として円よりもドルを信頼しているためであろうし、貯めこんだドルがアメリカで信用を拡大し、アメリカの景気が良くなるのなら、それはそれで結構なこと、と思っているためであろう。

③の結論は確かにその通りなのだろうが、世界一豊かといってもいい日本でこれ以上、どこに巨大な資金をふりむければ良いのだろう?道路か、空港か、新幹線か、それとも美術品?? 住宅も都会のど真ん中に住もうというのでなければ、十分に広いものが手にはいる。

この本で最も興味深かったのは、「インフレを理解せず、無防備な人が多ければ多いほどインフレ(政策)の効果が大きい」ということ。それと、ドイツと違って日本はインフレに対する抵抗感が少ないということである。今まさに日本ではインフレ歓迎というムードが充満しているように思う。巨大債務に苦しむ政府の思うツボということなのだろうか。

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