蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

「産業革命以前」の未来へ

2018年05月20日 | 本の感想
「産業革命以前」の未来へ(野口悠紀雄 NHK出版新書)

産業革命により進んだ、垂直分業・製造業の大規模化は、
近年の低コスト国の工業化・情報技術の発展により、水平分業・生産単位の小規模化へと変化しており、
資本集積の方法などと合わせ、世界経済は産業革命前の大航海時代の様相を呈している、
とする。

野口さんには相当な数の著作があり、かつ、私はそのかなりの部分を読んでいるので、「これ前読んだことあるな」と感じることがよくある。
本書の内容は「世界史を創ったビジネスモデル」と多くの部分がかぶっており、モノづくりに拘って変化が鈍い日本の経済・産業構造を批判する主張は(経済評論モノの)著作で常に見られるものだ。

今まであまり見たことがなかった主張は、第7章「中国ではすべての変化が起こっている」で、「はじめに」から引用すると

*****
「現在の中国では、第2章以降で述べているすべての変化が、同時に進行している。これが、第7章の内容だ。すなわち、産業革命的な大企業と、GAFAに対応する企業群である「BAT」、そしてユニコーン企業やAI・ブロックチェーン関係の企業の共存である。
中国は、長い歴史を通じて、政府がすべてをコントロールする官僚国家であった。いま、そこからの大転換が生じつつある。しかし、政府の力は強く、官僚国家と市場主義経済とが奇妙に混合している。中国は、根源的な矛盾をはらみながら成長している」
*****

驚異的な成長を達成した中国経済を、多くの人が、やがて失速するとか破滅的な崩壊がくる、なんて言っていたが、むしろ大きな国の中では中国が一番うまく経済運営をしていると(少なくとも現時点の結果を見れば)言える。それは、例えばWWⅡ後、一時的にソ連経済が好調だったようなものでたまたまうまくいっただけだ、と言うには(うまくいっている)期間が長く、かつ、その間、世界の社会・経済が激動しすぎだった。
巨大な人口を抱える国の経済が力強く成長し続けるというのは、悪くない話ではあるのだが、あまりに強大な国になってしまうのも、(地理的に)近い国としては、そこはかとない不安を感じてしまう。

(経済評論モノでない)エッセイ系(超~シリーズとか)の著作だと、著者の経験や豊かな趣味生活をうかがわせる脱線部分やコラムが多数挿入されていて、私としては、いつも(本題より)そちらの方を楽しみに読んでいるのだが、最近はそういった箇所がほとんどなくなっていて残念だ。

(蛇足)昔、野口さんの著作は「である」調ばかりだったが、近年「ですます」調のものが多くなっていた。
これは、音声認識を利用した口述→別人(もしくはソフトウエア)による書くだし、をしているためなのかと思っていたが、本書では「である」調に戻っていた。
まあ、音声認識だから「ですます」調になるというのも根拠があるわけではないし、「である」と「ですます」の選択は単なる気分の違いによるものなのかも??

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