昭和の犬(姫野カオルコ 幻冬舎)
戦後間もないころ、滋賀県の田舎と都会の中間くらいの香良市でイクは育った。語学教師の父親は機嫌が悪くなると暴発するDV系で、母親は育児放棄気味。しかし周囲の人の協力もあってイクは東京の大学に通う。東京では就職してからも貸間住まいで、清掃会社でずっと働き、独身だった。
とても薄幸な人生みたいに思えるが、終盤でイクはこう独白する。
***
「自分はいい時代に生まれたと思う。昭和という時代には暗黒の時期があったのに、日当りよく溌剌とした時期を、子供として過ごした。ましてその昭和最良の時期にも翳りの部分はあったのに、その時期に子供でいることで翳りは知らず、最良の時期の最良の部分だけを、たらふく食べた。田んぼや畦道や空き地や校庭や野山や、それに琵琶湖のほとりの浜は、空想の中で変化自在の空間だった。正義と平和を、心から肌から信じられた。未来は希望と同意だった」
***
私はイクよりも少し若いと思うが、戦後生まれのこの辺りの世代は、生きてきたその当時はそうは思わなかったが、振り返ってみると日本という国の歴史上最もラッキーな世代だったのかもしれない。戦争の惨禍は直接には経験せず、生活水準は時間とともに切りあがり、経済成長の果実の一番おいしいところを味わえた。
本作は全体として「リアル・シンデレラ」とよく似た内容だと思うが、作品のレベルとしては「リアル・シンデレラ」がかなり上にあると思えた(個人の感想です)。「リアル・シンデレラ」が直木賞を逃し、本作が受賞するというは、相手(他の候補作)があるとはいえ、面妖なことと思えた。
戦後間もないころ、滋賀県の田舎と都会の中間くらいの香良市でイクは育った。語学教師の父親は機嫌が悪くなると暴発するDV系で、母親は育児放棄気味。しかし周囲の人の協力もあってイクは東京の大学に通う。東京では就職してからも貸間住まいで、清掃会社でずっと働き、独身だった。
とても薄幸な人生みたいに思えるが、終盤でイクはこう独白する。
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「自分はいい時代に生まれたと思う。昭和という時代には暗黒の時期があったのに、日当りよく溌剌とした時期を、子供として過ごした。ましてその昭和最良の時期にも翳りの部分はあったのに、その時期に子供でいることで翳りは知らず、最良の時期の最良の部分だけを、たらふく食べた。田んぼや畦道や空き地や校庭や野山や、それに琵琶湖のほとりの浜は、空想の中で変化自在の空間だった。正義と平和を、心から肌から信じられた。未来は希望と同意だった」
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私はイクよりも少し若いと思うが、戦後生まれのこの辺りの世代は、生きてきたその当時はそうは思わなかったが、振り返ってみると日本という国の歴史上最もラッキーな世代だったのかもしれない。戦争の惨禍は直接には経験せず、生活水準は時間とともに切りあがり、経済成長の果実の一番おいしいところを味わえた。
本作は全体として「リアル・シンデレラ」とよく似た内容だと思うが、作品のレベルとしては「リアル・シンデレラ」がかなり上にあると思えた(個人の感想です)。「リアル・シンデレラ」が直木賞を逃し、本作が受賞するというは、相手(他の候補作)があるとはいえ、面妖なことと思えた。