蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

宇喜多の捨て嫁

2017年04月22日 | 本の感想
宇喜多の捨て嫁(木下昌輝 文藝春秋)

宇喜多直家の生涯を連作形式で描く。

直家は、戦国末期の中国地方にあって、策謀をめぐらせては、敵や時には味方だったはずの武将たちを暗殺して勢力を広げる。
彼が浦上氏の部将として城持ちになるあたりまでの史実はあまり明らかではないようだが、本書では、出来物の祖父が暗殺された後、母と二人で放浪して苦労を重ねる、という設定になっていて、この母との関わりを描いた「無想の抜刀術」が特に印象に残った。

著者によると、直家は、単に悪辣だったから(戦国期としても)ダーティとみなされてしまう謀殺を連発したわけではなく、戦をして家来の人命を損ねたり領民の経済的利益を損ねたりするより暗殺で済ませる方がよい、と考えたらしい(実際、敵手にとっては悪魔のような直家だが、家中の者への応接は大変に手厚かったらしく、多くの優秀な生え抜きの家臣が育ったということだ)。
そのあたりを描いた「貝あわせ」と前述の「無想の抜刀術」については、厳しい生い立ちを強いられた直家を、弱々しくも健気な?武将として描いていて好感が持てた。
ところが、それ以外の短編については、内面を全く覗かせない悪魔的な冷血漢としてしか登場しない。この2つの直家のギャップを埋めるような編があればよかったな、と思った。

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