蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

黒王妃

2013年02月26日 | 本の感想
黒王妃(佐藤賢一 講談社)

16世紀後半、ヴァロワ朝フランスを実質的に支配したカトリーヌ・ドゥ・メディシスを主人公とした歴史もの。
カトリーヌはメディチ家出身で、フランス王アンリ2世に嫁ぐが、アンリ2世には(母親的存在の)愛人がいた。アンリ2世は事故で死亡し、長男が王となるが、これも狩りの途中の怪我が原因で若死にする。次は次男を王にするが幼年のためカトリーヌが摂政的存在となる。
そうした家族的な不幸せもさることながら、当時のフランス国内は、宗教改革の影響で新旧両派が内戦を繰り広げていてその争いにカトリーヌは翻弄され続ける・・・という話。

アンリ2世が死んで(これ以降カトリーヌは喪服調の黒衣ばかり着るようになったのが「黒王妃」の由来)息子たちを王にすえて苦闘するカトリーヌを描いた普通の叙述パートと、
愛人と夫の愛を争い、勝つことができず、やがてアンリ2世が騎馬試合で死亡するまでのカトリーヌの独白調のパートが、交互に記述される。中心は後者の独白部分でクライマックスは騎馬試合でアンリ2世が致命傷を負うシーン。

今、40歳代以上くらいの人は、「ノストラダムスの大予言」というベストセラーをご存じかと思う。この本の中でノストラダムスの予言が的中した例として、このアンリ2世の死亡事故がかなり詳しく取り上げられていた。このため、歴史上、それほどたいした事件とはいえないアンリ2世の死の経緯を、私は今でもよく覚えていた。
もしかして、私と同世代の著者も「ノストラダムスの大予言」を読んで、アンリ2世の死が他のイベントに比べてより印象強く記憶していたのではないか?なんて考えてしまった。

アンリ2世の死の後に、(普通の叙述部分であるパートに戻って)「聖バルテルミーの虐殺」が描写されて(そして、実質的に虐殺を命じたカトリーヌの動機は実はアンリ2世の死の原因をつくった人物を殺すためではなかったのか・・・という仄めかしがあって)本書は終わるのだが、歴史上、カトリーヌはこの後病死し、次男の後を継いだ三男も暗殺されてヴァロワ朝は終わってしまう。
カトリーヌは息子たちを支えて、あの手この手でなんとかアンリ2世が残した国家と家族を守ろうとするが、両方ともにかなえることはできなかった。

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