蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ポケットの中のレワニワ

2010年02月03日 | 本の感想
ポケットの中のレワニワ(伊井直行 講談社)

主人公のアガタは、さえない大学を出て正社員になることなく、今はコールセンターの派遣社員として働いている。
教員だった父は亡くなり、母は再婚した。再婚相手の連れ子はひきもりのパソコンマニア。このひきもりの義弟がアガタの唯一のプライベートな話し相手。
コールセンターの上司は、幼なじみのベトナム人女性、ティアン。アガタはティアンに好意を抱いているが・・・という話。

レワニワというのは、ホラ話が好きだった父がでっちあげた想像上の生物で、トカゲの姿態をしていて人間の願い事をかなえる能力を持つが、願いごとをかなえると食人鬼に返信していまうというモンスター。
子供時代のアガタはレワニワの存在を信じ、近所をさがしたりするが、もちろん見つけられない。

アガタは、派遣社員という立場では結婚ができず、子供も持てず、幸せになることは不可能だと思い込んでいる。このためティアンにも好意を打ち明けることができない。
そんなアガタの前にレワニワが出現したとき、頼みこんだのは金でも地位でも女でもなく「生きる意味を教えてくれ」だった。

アガタは、結婚も恋愛もできそうになく、家族もいないに等しく、自分を頼りにしているのはひきこもりの義弟だけという立場に絶望しており、自らの存在意義を見出せない。
一方で、雨露をしのぐための部屋がないわけでもなく、食べるものに不自由しているわけでもない。
そうしたものがなくなったら転げ込むあて(母親宅)も確保している。
つまり衣食は足りているわけで、「生きる意味を教えてくれ」という望み自体が、ある意味では彼がそれなりに幸福な状況にある証といえなくもない。

レワニワもそれを承知していたのか、アガタに与えた回答は「恋」だった。「恋」に夢中になって生きる意味を考えるのなんかやめちまいな、というのがレワニワの真意なのではないかと思った。
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