蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

隠蔽捜査

2008年03月22日 | 本の感想
隠蔽捜査(今野敏 新潮文庫)

警察庁のキャリア官僚で官房総務課長の竜崎は、「官僚」を絵に描いたような人物で、法と原則に忠実に従い、同僚も驚く堅物だが、国のためなら命を捨てても良いと考えている。
竜崎と同期のキャリアで幼なじみである伊丹は、やはりキャリア官僚だが東大を出ていないこともあって竜崎よりやや格が落ちる警視庁の刑事部長。こちらは現場重視のナイスガイである。

(以下、ネタバレありますのでご注意)
このような設定だと、普通は伊丹が主人公で真実を求めて捜査指揮するところを竜崎が官僚的な妨害をして、伊丹が「事件は現場で・・・」みたいなことを言う、というストーリーだろうな、と考えるところだ。
しかし、この作品では真逆で、真実を誠実に追究するのは竜崎で、隠蔽しようとする現場と官僚機構を強情かつ強引にそうでない方向へ誘導する。
ここが並の警察小説とは大きく違うところで、一見さえない、いやな奴の典型のような竜崎の人となりに読者はやがて共感を覚えるようなになってしまう。

小説はフィクションなので、現実にはありえない設定をして読者を非現実の世界へ誘うものだと思うのだが、警察小説のように実際に存在する組織を描く場合には設定があまりに現実離れしているとしらける。
本書は警察の仕組みなどについては(多分)現実に忠実に描写しているが、人物設定は、相当に突飛だと思う。竜崎のような人物が実在するとは思えない(息子が自宅で麻薬を吸引していたからといって「自首させよう」と思ったり、宴席にさそわれて全く飲まず食わずで話をした後席を立つような人はいない)。
リアルな背景と作り物めいた(しかしある意味では理想的ともいえる人格の)人物がうまくマッチしてとても良い警察小説になっていると思う。

(今野さんの他の著作にもいえると思うが)タイトルはもう少しなんとかならないだろうか。冴えたセンスのあるタイトルなら本書の人気ももっと早く大規模になっていたような気がする。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする