蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

進化しすぎた脳

2008年03月01日 | 本の感想
進化しすぎた脳(池谷裕二 講談社ブルーバックス)

著者は薬学の専門家みたいだけれど、著作はほとんどが脳に関する内容。
本書はアメリカ留学中に高校生に4回の特別講義を行った際の内容を収録したもの。

印象に残った点をピックアップしてみる。

①脳科学は兵器の発達や戦争とともに発展してきた。戦争で脳に銃弾を撃ち込まれたような患者のその後のふるまいなどを調べることで脳のどの部分がどのような働きをしているかがわかってきた。

②他の臓器と違って脳は場所によって機能が分化している。同じ視覚を司る機能を担当している部分でも色を感じるところ、動きを感じるところなどさらに機能が細分化されている。例えば色を感じる部分だけが損傷すると、モノは見えるがすべて白黒になってしまう。

③人間の脳の特長として抽象化(汎化)できる能力があげられる。抽象化は言葉によって支えられている。人間以外の動物も高いところに行くと「こわい」と感じてそこを避けようとする。「こわい」と感じさせる脳の場所は「扁桃体」というところ。しかし人間も動物も「こわい」から避けるというよりは扁桃体が感じる(活動する)から避けるというべきで、「こわい」とか「恐怖」というのは、「扁桃体が活動する」状態を後付けで名づけたものである。言葉にすることで抽象化ができるのは人間だけ。失語症にかかると抽象化ができなくなることからも言葉が抽象化を支えていることがわかる。

④下等な生物ほど記憶が正確である。例えば鳥は写真のように正確に見たものを記憶する。これは反面では融通がきかないということであり、人間は見たものを正確に記憶することは苦手だが、時間をかけて抽象化を行うことで臨機応変な適応力を持つことができている。

⑤神経細胞の間には隙間があって、そこを電気信号(イオン)が行きかうことで情報(電気信号)を伝達しているが、いつも確実に伝達ができているわけではない。手足の筋肉のように確実性(動かしたいと思ったらすぐにその通りに動く)が求められる部分では確実性が高く、脳のような場所では確実性が低い。これば脳の活動のあいまいさ(確実に対象の記憶を行うのではなく、時間をかけて抽象化を行う)の原因である。

⑥薬は神経細胞に影響を与えることで薬効(例えば痛みを緩和する)を発揮している。しかし、神経細胞のことがわかってきたのは極く最近で薬は昔からある。「薬がこの神経影響を及ぼして効果を発揮している。だからこの病気の原因はこの神経にあるのでは?」というように薬は医学調査のツールとしても使われてきた。例えばうつ病の原因はよくわからないが、うつ病に効く薬がセロトニンという神経伝達物質に影響していることがわかってきて、うつ病はセロトニンが原因箇所だと推定ができるようになった。
コメント
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