蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

不良定年

2008年03月02日 | 本の感想
不良定年(嵐山光三郎 ちくま文庫)

不良定年とは、(定年退職後に)妻や子に頼らず、おもねず、ある日家族に無断で数日間の旅に出てしまうような人、というところか。
歴史上の人物でいうと吉田兼好とか松尾芭蕉が不良定年にあたるという。

この手の本でよくありそうなのが、退職後に備えて定年前から趣味とか仕事以外の生きがいを持ちましょう、みたいな論旨だが、本書では、懸命に仕事して出世して会社のカネで遊びまくるようでないと不良定年にはなれないとしていて、異色である。
もっとも著者自身が平凡社の出世頭の編集者であったという自慢話も本書には収録されていて、そういう人ならでは見方、主張であるともいえる。

著者の真骨頂は、ひなびた田舎をローカル線で中高年の男のグループが温泉を経巡る、みたいな一見情けなさそうな旅行を、なんとも魅力的に、「そんな旅行がしてみたい」と思わせるように書ける文章力にあると思う。本書でもその特長は発揮され、旅愁を誘う。

俳句や短歌が数多く紹介されているが、その中で私が一番気にいったのは
「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」(久保田万太郎)。
かなり有名な句らしいが、「湯豆腐はどう食べるべきか」を論じた著者の文章とあわせて読むとさらに味わい深いものがあった。
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