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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

虹の谷の五月 3/5

2005年11月06日 | 本の感想
船戸与一さんが書いた「虹の谷の五月」(集英社)を読み終わりました。
日比混血の少年が、祖父とともに暮らすフィリピンの僻地の人々や山にこもり抵抗を続けるゲリラとの接触を通して成長していく姿を描く、船戸さんらしい筋書きの小説です。

「山猫の夏」「猛き箱舟」「伝説なき地」など船戸さんの作品をよく読んだのはもう十数年も前でしょうか。特に「猛き箱舟」は夢中で読み進んだ記憶があります。

ヤクザ映画を見終わって映画館を出てくると多くの人が肩をそびやかして風を切って歩いている・・・そんな話をよく聞きました。今ではヤクザ映画を見られる映画館はほとんどないので、実際そういう姿を見たことはないのですが。
船戸さんの著作を読み終わると、むしょうに、強い酒をのんで、胸やのどがやられるまでタバコをふかして、道行く人に難癖をつけたくなった、というのはヤクザ映画と同じ効果だったのでしょうか。過去形になっているのは、「虹の谷の五月」ではそういう気分にならなかったためです。(ただし、ラム酒は飲んでみたくなりました)

「虹の谷の五月」は確かに船戸さんらしさはあるのですが、かつての船戸さんの代表作と比べると、毒がないというのか、灰汁抜きした、あっさり・さっぱりした味わいになっていました。まさか直木賞を狙って万人ウケするものにしたということはないと思いますが・・・

浅田次郎さんの直木賞受賞作が「蒼穹の昴」ではなく「鉄道員」であったからと言って浅田さんの代表作として後者を挙げる人は少ないのと同じように、「虹の谷の五月」で直木賞を受けたからといってこの作品を船戸さんの代表作にあげる人も少ないと、私は思います。