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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「服従の心理」(著:スタンレー・ミルグラム/訳:山形 浩生)

2012-06-13 22:05:42 | 【書物】1点集中型
 スタンフォード監獄実験を聞きかじったのと前後して、この文庫版を見かけたので読んでみた。
 基本的には実験の手順と結果、分析。ものすごく大雑把に言えば、人は権威の前に、選択権の放棄と引き換えに責任から逃れようとする傾向がみられるという結果だったが、この結果にある程度納得もできてしまう。しかしその納得の裏に、では納得するだけの自分でいいのかという、見過ごすべきではない示唆もある。
 さらには訳者の「蛇足」が、研究に対する検証の意味でとても興味深く、最後にこれがあることで、「主体的に考える」ということの意味を改めて考え直す機会になった。
 「『人を傷つけない』のは根本的な道徳か?」という点では、ちょうどまさにその時代を指す「傭兵ピエール」を並行して読んでたときに「近代以前の軍は、非戦闘員だろうと(略)収奪しつくすのが基本だった」という言葉が示されたので、確かにその通りだと納得してしまった。戦争における人道的見地というのは、あくまで後づけなのである。性善説も性悪説も、どちらの可能性も人間は持っている。それは否定しがたいことだと思う。ただそれを、「そういうものだから」で済ますわけにはいかないのだ。

 エピローグには「忠誠、規律、自己犠牲といった、個人として大きく称揚される価値こそがまさに戦争という破壊的な制度上のエンジンを作り出し、人々を権威の悪意あるシステムに縛りつける」のは皮肉だ、とあったが、「服従」という言葉を単に言葉として捉えるならば、「蛇足」に「服従は信頼の裏返し」とあるように、良いも悪いもないフラットな言葉として捉えることができるということは確かだ。忠誠と盲従、規律と束縛が紙一重であるように。
 だからこそ「服従」にも「反抗」にも、その行為自体に自分で責任を負う意思が必要なのだ。

 毀誉褒貶あり、賛否両論ありのあまりにも有名な実験。しかしその成否はともかくとして、その実験に参加することで何かを得た被験者の数は決して少なくはなく、そしてその結果がこうして世に広く知らしめられることで明らかに多大な影響を及ぼすものであったことは間違いない。こうして読み手が一瞬でも立ち止まり、考える機会を与える。その意味では、やはり大きな意義を持つ実験だったと思う。


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