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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「傭兵ピエール(上)(下)」(著:佐藤 賢一)

2012-06-11 21:03:44 | 【書物】1点集中型
 フランス百年戦争の時代を、「傭兵」の立場から切り取る物語。カタカナ名前が覚えられないのが難点で西洋史ものはあんまり読んでなかったんだけど、やっぱり書く人が書くと面白い。傭兵稼業の無法さ加減、宗教的な考え方と時代背景による女性あるいは農民の苦難やらは事実そうだったのだろうと思うと、今こういう世の中になっているのが不思議なような気もする。

 一言で言うと、とても「青春」な感じのお話。苦悩はあれど、基本的に「気は優しくて力持ち」な主人公ピエール。デュマ3世代シリーズでも思ったけど、佐藤氏はこういうタイプの主人公が得意なのかな。少年漫画の王道みたいな爽やかさがある。
 さらに、ピエール自身が叶わぬ恋を悟ったなりの狂おしい葛藤もある。ヴィベットがそんなピエールを受け容れるシーンが個人的にとても好き。ピエールは仲間たちのために軍を去り、ラ・ピュセルとも袂を分かつことになったが、歴史上ジャンヌを待つ運命ははっきりしてるわけで……そこに今や、帰る家を得たピエールがどう関わっていくのか? と期待を持たせて始まった下巻は、なるほどそう来ましたか、という感じ。先日まで読んでいた「黒龍の柩」がオーバーラップした(笑)。

 そして落ち着くところに落ち着くまでの紆余曲折、ここに青髭譚まで絡んでくると最早ファンタジーというか、いよいよもって伝奇小説の世界にまで広がるのかと思わされたりもして(笑)。
 でも、これはただのハッピーエンドではない。何故ただのハッピーエンドで終わらせなかったのか、わかるような、まだ理解できていないような。けど、政治のしがらみや利害関係に囲まれながらも最終的にはそれを超えたところで、すべての命にピエールが真摯に向き合うことになった結果なのかも、とも思う。


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