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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「道化師の蝶」(著:円城 塔)

2020-11-22 16:19:42 | 【書物】1点集中型
 「烏有此譚」を読みたかったはずが、そういえばこれもまだ読んでななかったし……というわけで。

 最初は普通に筋を追っていけば理解できるような話に見えるのだけれども、だんだんと舞台も人物も入り組んでいく。物語はこのようにして組み立てられていくこともあるということを語る物語。ある意味ではそういう物語と言えるだろうか。
 物語の中に物語が紡がれ、中へ中へと螺旋階段を下りていくような感覚になる。しかしそれはわざとらしさやトリッキーな雰囲気をまったく感じさせない。話の筋を完全に理解するよりも、そこに表現されている何ものかを、それを描き出す言葉から想像し、その想像によってどこか違う世界に飛ばされる。何かただ正体のわからない、たとえば五次元以上の世界をゆるゆると浮遊しているとしたらこんな感覚になるんじゃないかと思う、これぞ円城ワールドか。なんというか、シュレーディンガーの猫が理屈(理論)ではわかるけども、実感(実体験)として完全な納得に至らないのと近いかな。

 正直、1回読んでこの2つの物語のすべてを理解できたとは思わない。でもやっぱりこの感覚が好きで円城作品を読むんだなあと、あらためて自覚する。そして、もう1回読んでもう少しわかることを増やしたい、と思う。そのときはまた何か、きっともう少し違うことを感じるだろうと思う。


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