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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「わたしの旅に何をする。」(著:宮田 珠己)

2010-11-16 21:03:33 | 【書物】1点集中型
 タイトル通り、著者の旅にまつわるエッセイ。解説にある通り、電車の中で読むときは注意しなければいけません。何度、帰りの地下鉄で吹き出しそうになったことか……っていうかエッセイっておしなべてそうなんですよね。だから移動中用に持ち歩く本にエッセイを選んで読み進めるたびに、読む本を選び間違ったような気になってしまいます(笑)。エッセイ書く人って本当にすごい。

 あとがきの「いつも何かに巻き込まれて思い通りにいかないその納得いかなさ」とは全くよく言ったもので、旅の思い出とはまさに、カルチャーショックでできているのだなぁと思います。旅を本当に楽しんでいる人ほどきっとそうなんだろうなぁ。シャレにならない苦労ももちろんあるけれども、それをすら他人が読んだときに面白おかしく感じるように語れてしまう。そのこと自体が、旅で経験したものごとを自分の血肉にしているということなんじゃないでしょうか。
 個人的に特にお勧めしたいエピソードは「ちょっとずそずわしますが」。これはもはや涙なしには読めません。地下鉄で笑いをこらえすぎて腹痛かったです。半分吹いてたし(笑)。タイトルだけでは意味が全然わからないという人。当たり前です。なので気になる人はとにかく読みましょう。読めばわかります。当たり前だけど。

 そして宮田氏、もといタマキング(尊称)の言葉の使い方、文章の組み立て方のセンスにも脱帽します。さらっと読んだ行も一見、意味の通った文に見えて主語と述語が真逆のこと言ってたりで(笑)たとえて言うなら、まますれ違いざまにさらっと目に入った何かが、普通だと思ったんだけどほんとはものすごくおかしかったことに、すれ違った一瞬あとに気づいて、思わず振り返ってしまうような。「二度見」しちゃうような。(笑)
 そんなわけで、日常の理不尽に憤りを覚えたときにこの本を読めば、タマキングの旅の「納得いかなさ」につい感情移入したりこみ上げる笑いをこらえたりに必死になるあまり、自分のもともとの怒りをあっさり忘れられること請け合いであります。

 しかしなんというか、こういう本を読むたびに、自分がしている旅行なんて旅とは言えない! と痛切に感じるんですよねえ。
 以下本文中、タマキングがエベレスト街道のトレッキング中に出会った中国系イギリス人のリックさんの言葉。

「ツーリストはただエージェントにお膳立てしてもらって旅行してる奴のことだ。トラベラーは違う。自分の力で道を切り開くんだ。だから俺はトラベラーなのさ」
(第1部 有給の旅人「トラベラー来たる」より)

 「しばらく洗ってない髪が変ちくりんにカールして、タマネギのようになってい」ても、それって真理だよねぇ。その一歩をいつか私は踏み出せるだろうか。


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