life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「乾山晩愁」(著:葉室 麟)

2012-06-29 22:12:36 | 【書物】1点集中型
 久々? の時代もの。って、本当は最近「黒龍の柩」再読してたんだった。感想はメモできていないけど、とても気に入ってる。

 それはさておきこの短編集、文学賞にも疎い私は寡聞にしてこれまで存じ上げなかった作家さんの手になる。が、日本画では昨今すっかり琳派に傾倒している私なので、「ジャケ買い」と言ってよいと思う(ていうか図書館だから「ジャケ借り」?)。

 藤沢周平のような雰囲気もおぼろげに感じつつ……とは言え藤沢作品も1、2冊読んだだけなので、ものすごい大雑把なくくりではある(笑)。北斎(と彼が見る広重)を描いた「溟い海」の印象があるので、「等伯慕影」ではそれこそ「溟い海」を連想しちゃったなぁ。あの等伯の、隠にこもる感じ、暗い情念が何とも(笑)。
 あと、普段恋愛ものは読まないけど、「雪信花匂」のような物語をたまに読むと何故かすんなり受け入れられるのが不思議(笑)。時代ものの、ある意味での非現実さ、その時代という背景ゆえの障害が、却って想いを純化しているようにも思う。逆に「永徳翔天」の永徳と仙千代の関係も危うげでいいし、「一蝶幻景」での朝湖と右衛門佐の距離感も、時代ものならではという感じ。2作にわたって登場の彦十郎(胖幽斎)も人間味があってすごくいい味が出ている。

 そして、なんといってもこの作品群の肝は、「雪信花匂」にて狩野探幽をもって語らしめた「絵師とはな、命がけで気ままをするものだ」という一言に尽きる。狩野派の威信を一身に背負うという、才能故の業を背負った探幽が「気ままをする」ことができるのはどうしたって狩野派の型の中で、そこからはみ出ることだけはできなかった。だから、そこから離れることができる雪信にこそ、いち絵師としての理想を遂げさせたかったのだろう。
 翻って他4作を見ても、どの絵師も「気ままをする」ためにさまざまの代償を払ってきている。何かを失いつつ、その先に自分の描きたいものを見つけていく姿がある。
 
 実際、光琳や等伯の作風を思い浮かべながら読めるのは楽しかった。赤穂浪士の討ち入りの場景や装束を「光琳好み」の画として想像するのも面白いし、そのあたりの陰謀史観的解釈も興味深い。英一蝶の来歴も初めて知ったし、狩野派の中での久隅守景の独特さの解釈も勉強になったし。
 ……と言っても、展覧会では図録も買わなければ音声ガイドも使わないので、これを読んで初めて久隅守景が狩野派だときちんと認識したようなものだったりもするんだけど(汗)。作中にもあったように、「夕顔棚納涼図」というモチーフが狩野派の王道とは一線を画していて、その意味ですぐに結びつかなかった……もちろん、それは作品の良し悪しとは全然関係なく。実際、「夕顔棚納涼図」好きだし。なかなか作品を覚えていられない私でも、すぐ思い浮かべられた。(笑)

 そんな感じで、題材に興味があったということもあって読後感は良かったので、またいずれ葉室氏の違う作品を読む機会を作ってみようと思う。


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