暑さ寒さも彼岸まで、とはよく言ったもので、
あんなにも暑かった夏の日を忘れてしまう涼しさです。
長く都会に住んでいると、季節のみならず、お彼岸や
お盆と言った昔からの日本の行事を忘れがちで、
私も長く故郷のお墓から遠ざかっているのが気がかりです。
この時期、多くの方がお墓参りに出向き、ご先祖様との
心の交流をするのですが、爽やかな秋の一日、
お墓に出向く人々を導く様に真っ赤に染まった彼岸花が
印象的です。都会のお墓では少なくなったものの、
田舎の墓地に出向くと、この時期、田んぼのあぜ道や
寺院の周囲に鮮やかな花の列が見られます。
小さい頃は、この花を摘んで叱られた経験が有りますが、
ご存じの通り、彼岸花は毒草です。
かつて、飢きんの時に、毒が含まれる球根を、水でさらして
食べたと言う歴史もありますが、間違っても食べてはいけません。
また、お寺の周囲にはシキミという常緑樹がよく植えられています。
お葬式や供花などでよく使用されますが、この植物も非常に
毒性が強く、我が国の植物の中で唯一毒物及び劇物取締り法により
劇物として指定されている程です。
かつて日本では土葬が行なわれることが多かったのですが、
当時、埋められた死体を山犬や野犬に掘り起こされない様に
この木を植えたと言われます。
お花屋さんに行くと、普通に仏様用の花として一緒にまとめられて
売られていますが、この木の毒性は非常に強く、間違って摂取すると
命に関わります。
私達はお墓に参ると、ご先祖様や亡き人々との関わりを深く感じます。
お彼岸の向こうには黄泉の世界があると言われます。
もしかして、あの世と関わる時、私達は、そこへ導く花や植物に死への道を
託しているのかも知れません。
それにしても、私達の身の回りには、死へと導くものが多いのでしょう。
一般に、寿命でなければ何だかのアクシデントを考えますが、
自分の周囲を見渡すと、沢山の死への切符が用意されています。
生活をしていく間に起こるアクシデントはもちろん、生きる為に食べる物にも
様々な毒が溢れています。
お彼岸が過ぎると次第に寒くなり、１０月になると、花屋さんに沢山の
シクラメンが並びます。その美しさに思わず見とれて、一鉢買い求める方も
多いですが、この花も、もちろん毒草です。
更には、年末ともなると、ポインセチアがクリスマスに色どりを添えます。
クリスマスの花として有名ですが、もちろん、この花も毒草です。
綺麗な花には毒がある、と言うのは本当で、美しい花や美味しい食べ物
更には、美しい女性には毒がある、と言うのはいささか嘘とは言えないのかも
知れません。
とは言うものの、危険な植物や動物、更には食品には注意するにしても、
美しく優しい笑みで、あっという間に危機感を失ってしまう私達男は、
やっぱり救いようが無いのかもしれませんね。
今朝テレビを見ていると、将来水族館の職員を目指す人達に、
深海魚であるバラムツを食べさせ、中毒を引き起こさせたという
ニュースが流れていました。
実際に食べさせてみて、体験をさせる意味があったようですが、
食べた人たちはいい迷惑です。
私が学生の頃、沖縄で中毒魚として知られていた魚に、バラハタと
言う綺麗な熱帯魚が有りました。
見た目綺麗で、結構大きくなり、毒魚と知っていても食べて中毒になる
人々が後を絶ちませんでした。
この魚はシガテラ毒と言う食物から体内に取り込んだ毒が体内に
蓄積され、それを食べた人が中毒症状を発するものです。
しかし、この魚は地域によっては全く毒を持たず、その見極めは
素人には全く不可能でした。
とは言うものの、この２種類の毒魚に共通の事は、どちらも食べると
とても美味しいのです。
バラムツはマグロのトロの様で、味はブリの様だと言われます。
食べる分にはとても美味しいのですが、魚体に大量に存在する
脂分は、人間の体内で分解をせず、そのまま脂のまま垂れ流しとなります。
バラハタも白身のしっかりとした脂の乗った魚で、中毒の危険性が無ければ
間違いなく高級魚として出回ります。
しかしながら、美味しい食材や綺麗な花には何故毒があるのでしょう。
これから冬場になれば、毒魚の代表のフグが美味しくなってきます。
山に分け入れば美味しいキノコの中に猛毒の種類が紛れ込んでいます。
つい先日もヒラタケとツキヨタケを間違い販売して、それを食べた人たちが
中毒症状を訴えました。美味しいキノコには必ず似た毒キノコが存在します。
でも、千葉のある地域では、物語でも有名な毒キノコであるテングタケを
塩蔵して毒抜きをして食べているのです。
そのまま食べれば死んでしまう様なものまで食べようとする人間の欲望は
果てが知れません。
でも、一方、毒と考えるのは人間にとっての事であり、毒である物を
好んで食べる動物も多くいます。
皆さんの大好きな可愛いコアラは猛毒のユーカリの葉を常食とします。
やはり人間の進歩は、毒と解っていてもなんとか食べようとする
食に対する絶え間ない好奇心が支えてきたのかも知れません。
とは言っても、私達の身の回りには、毒を体内に蓄えた様々な生物が
取り囲んでいます。
動物も植物も私達の健康を損う毒を有する種類が珍しくは無いのです。
しかし、一番の危険な生物は、ひょっとしたら貴方の隣にいるのかも
知れません。
昨日はお天気も良かった事も有って、昼前から外出する事にしました。
電車の中刷りにあった、横浜の野毛大道芸を覗いて見よう思い立ち、
東横線とＪＲを乗り継いで、久々の桜木町に降り立ちました。
この駅は、多くの観光客がみなとみらいの華やかな街並みを目ざす為、
裏にあたる野毛商店街は、かつて観光客も殆ど訪れない、
シャッターを下ろした小売店が目立ちました。
そこで、何とか多くの観光客を呼び込もうと考えれれたのが、大道芸でした。
商店街の方々や地元の方々の努力がしだい報われ、春と秋の２大会とも
多くの観光客が訪れるようになりました。
私も、その素晴らしいパフォーマンスを見たさに、カメラ片手に毎年通っています。
ここの大道芸は、世界的に有名なパフォーマーも多く出演され、私達の目の前で
繰り広げられる究極のテクニックに、シャッターを切る事も忘れる程です。
毎度おなじみの大道芸人も多く、何年も通っていると、同じ目線での演技に
舞台とは異なる親しみを感じるものです。
しかしながら、大道芸とは言え、パフォーマーの中には、理解に苦しむ、言わば
芸術と言うか観念の世界の様な、前衛的なパフォーマンスも有りました。
全身を金箔で塗り固めた男女が繰り広げる世界は、観客たちの表情を
笑顔と言うより理解に苦しむ表情に変えてしまいました。
でも、この手の作品は、最初に見た時の外見的な違和感が、次第に未知との
遭遇の様に好奇心となり、パフォーマーの世界を感覚的に理解させていくのです。
私も、いつの間にか引き込まれ、写真を撮るために、道路際に立つＪＲＡのビルに
上がる事にしました。ここは、窓際が喫煙場所になっていて、窓から大道芸を
大きく見渡すことが出来ます。
沢山の競馬客がタバコを吸う中、ベランダからパフォーマーを狙います。
数枚の写真を撮った時でした。突然、私の側に入り込んできた制服の男性が、
私に向かって、決して、後ろの馬券売り場や人々を撮らないで、との
厳しいお達です。
何故かとは聞かなかったものの、何やら異様な雰囲気です。
しばらくベランダから外のパフォーマーを撮っていると、隣で馬券片手に
タバコを吸っていた男の人が、突然声高に、こう言いました。
あの踊っている人達は撮っても良くて、我々は撮ってはいけない
と言うのは面白いね！と目を細めてにこやかに話しかけてきました。
そういえば、私を含め多くの観客が写真を撮っているパフォーマー達の
上半身は金箔で塗られているとは言っても、完全に素っ裸です。
最初は、私も、エッ！？と思ったのですが、数分も経つの全く気にもせず、
ただ彼らのパフォーマンスに見入っていました。
ひょっとしたら、本当に恥ずかしいのは踊っている演者ではなく、
後方で新聞片手にペンを持って画面に見入っている人々なのかもしれません。
様々なジャンルの大道芸は、昼を過ぎると暑い日差しで増々ヒートアップです。
観客たちもパフォーマーを道路いっぱいに取り囲んで声援を送ります。
昼前から立ちっぱなしの声援と写真撮りで三時過ぎには足腰がパンパンです。
遅い昼食を食べる為にみなとみらいの方に足を進めました。
桜木町のガードを潜ると、突然、未来都市の様な近代的なみなとみらいの
輝くビルが目に飛び込んで来ます。
いつも遊びに来ているみなとみらいとは言え、野毛の商店街の雰囲気とは
まったく異なり、先ほど見てきた大道芸も、沢山の人々も数十年前の
日本の様に思えました。
一昨日、田舎から帰ってきた妻が、今日になっても体調がすぐれません。
朝ご飯の準備が始まっていると、魚の焼ける匂いが漂って来ます。
どうやら、秋刀魚の塩焼きの様です。
ようやく出回って来たかと思いましたが、まだまだ例年より高く、
脂の乗りも今一のですが、旬を頂けるとあって、食べる前から楽しみです。
程よく焼き上がって、朝食が始まりました。
２人でテレビを見ながら、お互いの情報交換です。
妻の話題は、やはり、帰省して大忙しで大変だった話題でした。
食べ始めてしばらくすると、突然、妻の箸が止まりました。
急に腹痛を訴え始め、それからしばらくお腹を九の字に曲げて苦しそうです。
秋刀魚のせい？いや、新しくて美味しい秋刀魚です。
何より妻は大の魚好き、一体何が起こったのか解りません。
そういえば、昨日仕事から帰って来た時から、様子が変でした。
遅く帰った私とあまり話すことなく、風呂にも入らず寝てしまいました。
やはり、疲れからかかなり体調が悪いようです。
食事もそこそこに、妻は寝室の方へ戻りました。
今日、仕事を休ませ、もう一日ゆっくりとさせる事にしました。
私は昼頃に出かけるため、食後ゆっくっりとビデオやテレビを見ていると、
何やら庭の方から大きな音が聞こえてきます。
道路の方で工事か何かが始まったのでしょう。
そんなに気に留めることなく、出勤の時間までのんびりとしていました。
歯を磨き、洋服に着替え、そろそろ出かける為に、寝室を覗きました。
昨日から、毛布にくるまった芋虫の様な姿が想像できました。
しかし、寝室には誰もいません。
一瞬、えっ！？と思いましたが、庭で洗濯物を干しているのだろうと思い
庭を覗きに行くと、何と、大きな瓦礫を両手で持ち上げて奮闘する
泥まみれの妻がそこに居ました。
何をやってるの！？、怒りと脱力感で言葉が出ません。
あんなに苦しそうで、身体を動かすのも難儀だと言っていたのに！
聞けば、前から気になっていた庭の粗大ごみを片付けていたとの事。
確かに、ここ、何年にも渡って掃除しなければと言ってはいたけど。
何故、このタイミングで、しかも、ゴミを片付ける足取りは、見るからに
よろよろとふら付いています。
ようやく本人も気が付いたのか、片付けを辞め、部屋に入っ来ました。
汚れた洋服を着替えて、居間のクッションにもたれかかると、その姿は
根も精も尽き果てたかのようなよれよれ状態でした。
昨日も疲れ気味だったのに、今日は仕事も休んでしっかりと休養すると
朝方言っていたはずなのに、休むはずが、より一層疲れ果てた様です。
今までで一番体力の無い状態で大仕事を行ない、暇で気力も体力も
充実している時は、何度言っても少しも片付けないのに、、、、、、。
妻は、何かするときは、ほとんど計画は立てず、歩き出してから
考えるタイプで、必要性に迫られないと動かない性質です。
でも、こうだと決めると誰も止められません。
私は、どちらかと言うと、しっかりと計画を立て、結果を見据えて
動く性格で、時には、石橋を叩いても渡らない事が有ります。
本当に、水と油の様な二人です。
妻に言わせると、自分が普通で私が異常という事になるようです。
生活全般においても、全くかみ合わない二人が結婚するとは、
恋は盲目とはよく言ったものです。
でも、盲目にならないと結婚は出来ないのかも知れません。
余りにも、相手の事が解ってしまい、自分と合わないと恋に走れない
そんな若者が目立ちます。
勢いで結婚できるのは若いうちです。
私達の様に、お互いの違いがはっきりと分かっても、お互いを
理解でき、長きに渡って一緒に生活できるものです。
それにしても、一年中、妻の行動には驚かされっぱなしです。
左が妻が田舎の畑で収穫したゴーヤ
右は都内のスーパーで買った物
妻が疲れ果てて夜行バスで帰ってきました。
私の田舎に行き、父の転院を手伝って来ました。
私は仕事が忙しく、いつも妻が代わりに出かけるのですが、
今回は二日ほどで帰ってきたにもかかわらず、かなりの
疲労が身体全体から感じられました。
転院といっても、隣にできた同じ病院の一室に移るだけで
スタッフも一緒に手伝ってくれるので、大したことはありません。
しかし、今回は、空いた時間に、父が趣味で作っていた畑を
１人で耕したようです。
何しろ、ほとんど都会にいる事も有って、最近、猫の額の様な
我が家の庭の除草をしたぐらいです。
その、十倍以上の畑を、何を考えたか、一人で手を入れたのです。
この夏、父の具合が悪くなり、春から夏にかけては野菜も雑草も
伸び放題です。
一番の問題は、畑全体を覆ってしまったカボチャのツルでした。
クモの巣の様に張り巡らされた太いツルは、大人の親指よりも太く
私も、夏に、剪定バサミで切ろうとして諦めたほどです。
しかし、やり始めたら止まらないのが私の妻のこわい所です。
夏には大きな蜂の巣を自分で捕って自慢げにスマホに載せた程です。
でも、やはり、その大変さは自らが身体で感じたようです。
帰って来た時の姿は、まるで、日本中を放浪して来た様でした。
座ったらテコでも動かないと言った状態で、大きな袋を左右に
ドント置いたまま何もしゃべりません。
しばらくして落ち着いたのか、おもむろに、黒い大きな袋に
手を突っ込むと、何やら大きな大根の様なものを出してきました。
私が寛いでいるリビングまで持ってくると、それは、市販の物より
断然大きくて太いゴーヤでした。
我が家でも、この夏、幾つかのゴーヤが生りましたが、
これは、これはまさにジャイアントの大きさでした。
そして、妻は片手で握って私の前に突き出しました。
そう、それは、夏の日に、あの危険な蜂の巣を片手に持って
自慢げに鼻を高くしているあのスマホの写真と同じでした。