めぐろのめばる

目黒川近辺で日本の四季を楽しみ、未来の日本を憂う。
かつての美しい日本と日本人がいかに素晴らしかったかを思う。

潜水士死亡のニュースを見て

2014-05-08 12:55:03 | ダイビング

韓国の痛ましい客船沈没事故からかなりの時間が経ちました。
しかし、今だ多くの乗客の安否が解らず、捜索活動も難航しています。

ところで、そんな中、潜水士の事故死が報じられました。
激しい潮流と透明度の悪い海底での作業は想像を絶するものです。
私も、学生時代沖縄で潜水してサンゴを調べている時、危ない目にあいました。

毎週日曜日に研究を兼ねてダイビングの練習を半年ほど積み、沖縄に行きました。
当時、沖縄に生息する海洋生物の研究をしていたのですが、潜る時はいつも二人で、
お互いにどちらかが海面か近くで相手を注意して、事故が無い様に心掛けていました。

沖縄の海は透明度が非常に良くて、サンゴ礁の中の波の影響を受けない
水深20メートル程の海底でサンゴの観察をしていました。
大きさ、種類、形状、生育年数等を水中ノートに細かく書き記す作業は時間がかかり
一回の潜水で30分以上海底に留まることは珍しくなく、余りの明るさと透明度で
しばらくすると水中にいる事さえ忘れてしまいます。

ちょうど相棒と交代する時間になった頃、ふと水面を見上げると、腰につけていた
浮力のある資料がゆっくりと昇って行くのが見えます。
もうすでに水面近くまで上がっていきます。
その時、私は、とっさに勢いよく資料に向かって浮上し始めました.

私の急変に相棒が気づき、海底へ戻るように親指を下にしていましたが、
私の頭の中は浮いて行った資料を取ることで一杯でした。
この行為はいかに危険であるか、誰もが、特に我々日頃潜っている人間には
しっかりと身に付いているはずなのですが、その時は全く気にもしなくなっていました。

水面下3メートル程で相棒は私の腕をつかむと、すぐさま海中に引っ張り始めました。
海底が近づくにつれて、事の重大性が次第に解り始め、その後は、海底に数時間留まり
何度もボンベを入れ替えてフカシという血液中の気化した空気を血液に戻す作業をしました。
急激に浮上したことにより、沸騰した水の様に溶けこんだ空気が気化して、
体中で神経を刺激します。陸に上がって横になった後、関節の痛みと頭痛で次第に恐怖が
襲ってきました。

当時、減圧タンクは沖縄の米軍基地か北九州の小倉にしかなく、このまま症状が
悪化すれば命に係わるところでした。
幸い、3日程寝ていて症状は治まり大事には至りませんでしたが、
これ程にも水中での作業は危険なのです。

長く水中に潜っていると、窒素酔いと言われる症状が起こり、
思考能力が低下します。
かつて、長時間潜っていたダイバーが、マウスピースを魚に差出し
溺れて死んでしまったというニュースが有りました。
30分以上深い所にいると強いお酒を飲んだ様な感覚になることもあるそうです。

多くの人が亡くなり、いまだ行方不明の方々がいる海底の船の捜索は
精神的にも非常にハードな現場と思います。
たとえベテランの潜水士であっても油断はできません。
昨今、レジャーダイビングが盛んで、経験の浅い人たちも気軽に海底散歩に興じています。
しかし、陸にいる我々が、空気のない水中で遊ぶという事は、楽しい反面
命の危険性が有る事をいつも心していなければならないと思います。