電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

畠中恵『しゃばけ』を読む

2008年05月22日 05時00分07秒 | 読書
新潮文庫で、畠中恵著『しゃばけ』を読みました。はじめは、ヘンな書名だなぁ、と思っておりました。山形弁で障子紙がやぶけることを「しゃばげる」と言いますが、どうもそういう意味でもなさそうですし、「娑婆気」というのを知って、ああ、成程、です。

第1章「暗夜」の冒頭から、不思議な妖怪たちの登場です。ところが、これらはあまり怖くはなくて、むしろ人間のほうが怖い。奇怪な殺人犯の男が登場し、一太郎と言う若旦那の危機。うまいものです。佐助、仁吉という二人の手代も、実は犬神、白沢という別の名をもつ妖怪だというのです。
第2章「妖」。薬種問屋・長崎屋の病弱な若旦那、一太郎の家族構成と日常が描かれます。
第3章「大工」。殺されていたのは大工でした。そして、大工道具が盗まれていました。長崎屋の隣家の栄吉は、一太郎の親友ですが、菓子屋の倅のくせに菓子づくりはまるっきり下手っぴいで、妹は若旦那に憧れています。ただし、さすがに名前は花子ではありません(^o^)/
第4章「人殺し」。薬種問屋に妙な客が来ます。命を購う特別な薬を求めに来たというのです。ですが、男はいきなり出刃包丁を振り回す狂気を示します。
第5章「薬種問屋」。再び薬種問屋が襲われ、殺されます。そして、若旦那も襲われます。
第6章「昔日」。生まれてすぐに死んだ実の兄と、腹違いの兄の存在。若旦那の誕生前の家族の秘密が明かされます。そしてまた一人、薬種問屋が殺されます。
第7章「所以」。若旦那の推理が冴え、失われた大工道具が判明します。それは、古い割れた墨壺でした。
第8章「虚実」。こんどは、親友の栄吉が襲われます。そして祖母と母にまつわる、若旦那の出生の秘密と不思議な霊薬の存在が明らかになります。
第9章「炎」。殺人犯との最後の対決の章は、お楽しみのために内緒にしておきましょう。「娑婆気」のタイトルは、このあたりから取られたのでしょうか。

主人公の若旦那の名前が「一太郎」とくれば、私の世代ではヒロインは「花子」と連想しますが、さすがにそれではジャストシステムの商標になってしまいます。江戸の幻想譚、ぐっと現代的になっていますが、不思議な妖怪たちの性格は、中国の霊異譚である『聊斎志異』に通じるものがあります。なかなか面白く読みました。本作はシリーズ化されているようで、他の作品も楽しみです。

写真は、今が花盛りの桐の花です。先日の嵐で吹きとばされたものでしょうか。

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2 コメント

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しゃばける (きし)
2008-05-23 00:44:24
しゃばける。でも、最近聞かなくなりましたね。
高校時代の先生が山形の言葉は音が汚くて好きではないとおっしゃったことに違和感を覚えたことを思い出します。今、方言自体は使われなくなってきていても、耳に入ってくる会話の音が以前よりもずっと乱暴で汚くなっているように感じることを思うと、あの時の違和感にきちんと理由をつけて、そうではない、と、今なら言えるような気がします。
…おや?「しゃばけ」から別の話になってしまいました(^^;
きし さん、 (narkejp)
2008-05-23 06:06:14
全く同感です。山形弁は濁音が多いという特徴があり、それを汚いと表現したのだと思いますが、それはちょいと違うように思います。言葉の汚さと清音濁音の比率とは、直接的な関係はないと思いますね。「あの子、キモくってさぁー」という言葉は清音だけでできていますが、「ほだなごど、言うもんでないずー」という濁音の多い言葉と比べて、美しいか?というと疑問ですね。
おや?私も「しゃばけ」から別の話になってしまいました。「しゃばけ」、なかなか面白いですね。

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