電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形交響楽団第288回定期演奏会でオール・ベートーヴェン・プログラムを聴く

2020年11月30日 06時01分09秒 | -オーケストラ
新型コロナウィルス禍が再び徐々に広がりを見せてきている晩秋の日曜午後、感染対策に留意しながらも、山形交響楽団第288回定期演奏会に出かけました。11月29日(日)15時開演、山形テルサホールです。

会場に入ると、万が一を想定しチケットの半券の裏側に氏名と電話番号を記入し、入口にはサーモグラフィによる体温チェックと消毒液が置かれ、主催者として可能な限り感染防止対策が取られています。座席は以前のように一つおきではなく、通常の形で着席し、マスク着用と会話を控える制限で感染の危険を減少させる対応です。

開演前のプレトークでは、西濱事務局長が感染対策の概要と退場時の誘導などを説明した後に、今回の指揮者・粟辻聡さんが登場します。粟辻さんは現在31歳、21歳のときに山形のアフィニス音楽祭に参加したこともあったとか。山響には2015年にデビュー、粟辻さんは、スクールコンサートに対する団員の皆さんの姿勢に感銘を受けたと話していましたが、山響側からも強い支持があり、今回の定期演奏会での登場となったものだそうです。また、今回のソリスト、ゲルハルト・オピッツさんの奥様が山形生まれの方とは初めて知りました。意外な御縁です。

さて、本日はオール・ベートーヴェン・プログラムです。

  1. バレエ音楽「プロメテウスの創造物」作品43 序曲
  2. ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58
  3. バレエ音楽「プロメテウスの創造物」作品43より、第9曲、第10曲、第16曲
  4. ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝」 作品73
      指揮:粟辻 聡、ピアノ:ゲルハルト・オピッツ、山形交響楽団


ステージ上には、中央にピアノが置かれています。楽器配置は左から第1ヴァイオリン(8)、第2ヴァイオリン(7)、チェロ(5)、ヴィオラ(5)、右手奥にコントラバス(3)、中央奥にフルート(2)、オーボエ(2)、その奥にクラリネット(2)、ファゴット(2)、最奥部にホルン(2)、トランペット(2)、右奥にティンパニです。ホルン、トランペットはナチュラル・タイプ、ティンパニはバロック・ティンパニです。

第1曲、「プロメテウスの創造物」序曲。粟辻さんが颯爽と登場、指揮棒なしで、しなやかに、ときに切れ味よく、若々しい指揮ぶり、フレッシュな音楽です。続いてピアノの屋根?を開けて、2曲めは大好きなピアノ協奏曲第4番。オピッツさんのピアノ、第1楽章のカデンツァが圧倒的です。第2楽章、粟辻さんの指揮で力の入った入り方が良かった。決然とした表情というのか、低音をきかせ、ぐいっと切れ味の良い音楽がオーケストラの魅力を引き立てていました。第3楽章も良かった、素晴らしかった。

ここで休憩20分が入ります。



ピアノの屋根は閉じて、3曲めは「プロメテウスの創造物」から、第9曲、第10曲、第16曲です。粟辻さん、やはり指揮棒なしで。印象的だったのは、重たくなく後に引かないバロック・ティンパニの音が曲想に合っていること。素人音楽愛好家は、一人なるほどな〜と納得です。あれれ、第16曲「フィナーレ」、これは「英雄」交響曲の終楽章の旋律じゃないか! おそらくベートーヴェンお気に入りの主題だったのでしょう。

ピアノの屋根を開き、4曲めはピアノ協奏曲第5番、いわゆる「皇帝」です。再びゲルハルト・オピッツさんが登場、粟辻さんがやはり指揮棒なしで演奏が始まります。山響とオピッツさんの息もぴったりで、例えば弦のピツィカートとピアノの呼吸など、音のバランスといいタイミングといい、ほんとに惚れ惚れします。中間の楽章は低音を響かせたいいサウンドで、これに入ってくるピアノの入りが明瞭で強すぎず弱すぎず、まさにこれ以上はないと思うほど過不足のない鳴り方です。終楽章の活力に満ちた音楽も、これ以上ないほど。自然な様子でいて力強い、ベートーヴェンの音楽に詩情を感じるような弱音、緩徐楽章。巨匠と呼ばれる人の音楽は、こういうものなのだなと、あらためて実感しました。ほんとに素晴らしいピアノ! 同時に山響の魅力も存分に味わい、ステキでした!



もう一つ、ホワイエには先ごろ亡くなられたフルートの足達さんの遺影と記念の展示が行われていました。山響在職35年、享年64歳といいますから、まだまだ若いではないですか。病気だから仕方がないというよりも、演奏会に穴を開けたくない音楽家の健康管理、マネージメントというのは意外に難しいのではなかろうかと感じました。

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