電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

桜井俊彰『長州ファイブ〜サムライたちの倫敦』を読む

2020年11月05日 06時00分26秒 | -ノンフィクション
今月11月新刊の集英社新書で桜井俊彰著『長州ファイブ〜サムライたちの倫敦』を読みました。一昨年に読んだ中公新書で柏原宏紀著『明治の技術官僚〜近代日本と長州五傑』と共通の方向性ですが、中公新書のほうが伊藤博文と井上馨を除く三人の、技術官僚としての役割に注目したものであるのに対して、本書は最も若い長州ファイブの一人で「鉄道の父」と呼ばれる井上勝(旧名:野村弥吉)を中心に取り上げたものです。語り口は平明で、むしろざっくばらんな講話を聴いているような趣です。

本書の構成は、次のようになっています。

プロローグ 英国大使が爆笑した試写会での、ある発言
第一章 洋学を求め、南へ北へ
第二章 メンバー、確定!
第三章 さらば、攘夷
第四章 「ナビゲーション!」で、とんだ苦労
第五章 UCLとはロンドン大学
第六章 スタートした留学の日々
第七章 散々な長州藩
 休題 アーネスト・サトウ
第八章 ロンドンの、一足早い薩長同盟
第九章 「鉄道の父」へ
エピローグ 幕末・明治を駆けた長州ファイブ
あとがき
長州ファイブ年譜

ご覧のとおり、密航留学の実際の姿と思われるエピソードが多く語られており、読み物としても面白く、これならば高校生あたりにも面白く読めるのではないかと思います。

とくに興味深かったのは、著者も四十歳代で留学したというUCL=ロンドン大学の性格を伝えるあたりで、「ガワー街の無神論者たち」とオックスブリッジを出た保守層から非難されたロンドン大学の開放性、革新性が印象的で、だからこそ東洋のサムライ青年たちを受け入れる許可を出したのだなと納得できました。



ただし、本書の意義をあとがきのように「留学のすすめ」にまとめてしまうのは少々疑問です。古くは遣隋使・遣唐使の時代から長州ファイブまで、留学生が日本を作ってきたのだから、コロナ後の若者よ海外を目指せ、というだけでは、正直に言っていささか物足りないように感じてしまいます。

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