電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

晩秋にフォーレの「ピアノ五重奏曲第2番」を聴く

2020年11月18日 06時01分52秒 | -室内楽
晩秋の盆地は里山まで落葉の季節で、稲刈りの終わった田んぼは寒々と広がり、周囲の山々も高山から雪化粧が広がっております。どことなく物悲しさを感じるとき、若い頃ならば人恋しい音楽を好んで聴いたことでしょうが、勤め先の若い人たちから労られる年代にあっては、もう少し人生のリアルを感じたい気分もあります。例えば、フォーレのピアノ五重奏曲ならば、若さとフレッシュさが好ましい第1番ではなく、地味で晦渋で憂愁に満ちた第2番。

フランスの作曲家フォーレ(1845〜1924)は、晩年、パリ音楽院の院長の要職にあって多忙な中、次第に進行する聴覚障害に悩みながら、ピアノと弦楽四重奏のための五重奏曲を作曲します。かなりの時間をかけた労作で、完成したのが1921年、75歳のときだったとのこと。幸いに同年の初演は成功し、Wikipediaによれば、ポール・デュカスに献呈されたのだそうです。



曲は4つの楽章からなっています。第1楽章、アレグロ・モデラート、ハ短調、4分の3拍子、ソナタ形式。ピアノのアルペジオで始まるのは第1番と同じですが、第2番ではピアノは地味めで、むしろヴィオラの主題にぐいっと心を掴まれます。何か切迫した雰囲気があり、未来を夢見ることができる若者とは違う、老人の心境かも。第2楽章:アレグロ・ヴィヴォ、変ホ長調、4分の3拍子。この楽章が最初に書かれたのだそうですが、かけまわるようなピアノ、せわしないような忙しい音楽の諧謔、老人性スケルツォでしょうか。第3楽章:アンダンテ・モデラート、ト長調、4分の4拍子。ヴィオラに導かれ弦楽のみで始まる、瞑想的な憂愁をたたえながらも、おだやかで親密な緩徐楽章です。晩秋の夕暮れ、田園の道路を一台だけ走る車の中で聴くとき、この気分に共感します。第4楽章:アレグロ・モルト、ハ短調、4分の3拍子。出だしから何か切迫感がありますが、中間部あたりから曲調が変わり、伸びやかな雰囲気に。

いいですね〜。若い頃は第1番のほうが好きで、第2番は地味で晦渋で、どちらかといえば敬遠していたほうですが、年齢とともに第2番がピアノ五重奏曲の名作である所以を理解しました。




若い頃に聴いたのは、エラートから発売されたLPの「フォーレ室内楽全集」、ジャン・ユボーのピアノ、ヴィア・ノヴァ四重奏団の演奏です。このLP全集は、いつ購入したのだったろう? 結婚する前だったような気がしますが、すでに記憶が曖昧です。CDでは、ジャン・フィリップ・コラールのピアノ、パレナン四重奏団の演奏を聴いていますが、この録音は響きがきついように感じて、あまり好みではない。できれば、実演で聴いてみたいものです。

【追記】
YouTube にあった演奏を貼り付けていたのですが、すでにリンクが切れていました。別のものを探していたら、2021年の Festival Musique a Flaine での演奏がありました。これです。
FAURE Quintette pour piano et cordes n°2 en ut mineur, op.115 - Festival Musique à Flaine


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