電網郊外散歩道

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堀田佳男『エイズ治療薬を発見した男・満屋裕明』を読む

2019年06月23日 06時03分30秒 | -ノンフィクション
前世紀の終わり頃に、単行本でエイズ治療薬を発見した人の話が出ているらしいと知りましたが、残念ながら手にする機会もなく、やがて忘却の彼方に沈んでしまいました。近年、文庫本に入っていることを知りましたがやはり入手することはかなわず、このたび行きつけの公立図書館で見つけてようやく読むことができました。2015年に刊行された文春文庫で、堀田佳男著『エイズ治療薬を発見した男・満屋裕明』です。

本書の主人公・満屋裕明氏は、頭がよくタフで行動的なタイプで、若い時代の学生運動の経歴や医局におけるふるまいをみると、かなり向こう見ずなところもある人のようです。熊本大学の医学部から米国に渡り、アメリカ国立衛生研究所(NIH)で研究員として働きながら実績を積み重ね、ボスの示した「エイズ・ウィルスに効く薬」を探し始めます。ご当人は医者であって化学・薬学の人間ではないので、化学合成はできませんが、エイズがウィルスによる病気であり、遺伝物質として RNA をもち,感染細胞内で逆転写酵素によって DNA を合成するレトロウィルスであることをもとに、試験管内で(in vitro)薬効のある物質スラミンを世界で初めて報告、続いて副作用のより少ないAZT(アジドチミジン)を確認しますが、AZTを提供した企業は、実際に研究したNIHの研究者5名を排し、自社の社員だけで無断で特許を取得してしまいます。このバローズ・ウェルカム社が現在のグラクソ・スミスクライン社の一方の前身というわけですか。フルタイドやアドエアなどで身近な企業だけに、ちょいとびっくり。それにしても、あまりにも高額すぎる薬価で発売された AZT に対し、満屋は ddI 等の新しいエイズ治療薬をリーズナブルな価格で提供することという条件を付けて別会社から送り出します。



今は高校の生物で初歩のところは習っているらしいですが、当方は昔、学生時代に習った生化学・分子生物学の知識のおかげで、なんとか抵抗もなく開発の経緯を読み通すことができました。ただし、専門外の人にはむしろ訴訟の面のほうが強い印象を受けるのかもしれません。当方は、業績をあげた中心的な研究者が、「開発費のもとを取る」ことを理由に利益を優先する企業にしてやられる話として、「やっぱりね〜」と読みました。そして、ノーベル医学生理学賞の対象にならないのも、企業との裁判・確執をかかえているからかもしれないと思ってしまいました。

私は、研究者のルール、結果を公開発表し追試で再現性を確認するなどの透明性に心惹かれます。これにくらべて、研究を利用し不当に利益を追求しようとする行為をチェックし後に判明した不備を修正することができにくい特許や裁判等のシステムは、社会的にみてどこか欠陥をかかえているように思えてなりません。そんなことを言っているから「仙人」などと言われるのでしょうけれど(^o^;)>poripori

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