電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形交響楽団第255回定期演奏会でメンデルスゾーン、ヒンデミット、ベートーヴェンを聴く

2016年09月05日 06時04分26秒 | -オーケストラ
台風12号の声も聞く日曜日、朝から果樹園の草刈りに精を出し、九月のリンゴ「つがる」を少しだけ収穫して、日中はシャワーの後でお昼寝タイムとなりました。午後からは、もちろん山形交響楽団第255回定期演奏会です。



会場の山形テルサホールに到着すると、本日のロビーコンサートが予告されていました。金管五重奏によるダウランドの「マドリガル集」から、三つの小品です。メンバーは、Tp:井上直樹・松岡恒介、Hrn:関谷智洋、Tb:太田涼平・高橋智広、の五人です。西濱事務局長の軽妙な進行で、曲目の解説は誰を希望しますか?というのに対して、「太田さ~ん!」という声があったのでしたが、肝心の太田涼平さんは「とてもとても…」と辞退(^o^)/
結局、井上直樹さんが、「バロック音楽の楽しみ」の皆川達夫さんもかくやとばかりの名調子で、イギリス・ルネサンスのリュートとマドリガルの大家の解説をしました。たしかに、リュートについて「ギターと日本の琵琶」が合体したみたいな楽器、という説明は実にそのものずばりで、思わず笑ってしまいました。おかげで、音楽のほうも親しみを持って聴くことができました。とくに、井上さんが最後に使用した小さなトランペット、あれはピッコロ・トランペットと言うのでしょうか、輝かしい高音が楽々と出て、見事なものでした!




ホールに入ると、なんと以前の職場の同僚と一緒になり、しばし歓談。職場の少数派:クラシック音楽の愛好家として、最近の山響の進境を歓迎し、来年度のシーズンのプログラムについて話題にしました。

ところで、今回のプログラムは、「自由なる精神~80歳の巨匠ポンマー待望の再登場!」と題して、

  1. メンデルスゾーン 序曲「フィンガルの洞窟」Op.26
  2. ヒンデミット クラリネット協奏曲 Cl:川上一道(山響)
  3. ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調「田園」Op.68
      マックス・ポンマー指揮 山形交響楽団、コンサートマスター:犬伏亜里

というものです。



開演前のプレトークの時間は、今回の指揮者、マックス・ポンマーさんのインタビューです。通訳は、フルートの足達祥治さん。実はライプツィヒ生まれのポンマーさんの先祖に高名な建築家がおられ、メンデルスゾーン家が住んでいた建物は、ポンマー家で貸していたのだそうで、現在はこれを寄付してメンデルスゾーン博物館になっているのだそうな。なるほど、ポンマー家とメンデルスゾーンとの因縁は浅からぬものがあるというべきでしょう。
そのポンマーさん、実は日本酒がお好きなのだそうで、特に山形のお酒が大好きとか。もう一つのお気に入りが温泉で、昨日もタクシーで鄙びた温泉に出向き、「ガイジンは私だけ」状態を楽しんできたそうです(^o^)/
なるほど、本当に「自由なる精神!」 演奏が楽しみです。



最初の曲目、メンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」。楽器編成は、Fl(2),Ob(2),Cl(2),Fg(2),Hrn(2),Tp(2),Timp.と弦楽五部(8-7-5-5-3)となります。この配置は、正面左から、1st-Vn、2nd-Vn、Vc、Vla、右奥にCbという配置で、正面奥に Fl,Ob、その奥にCl,Fgの木管、その奥にHrn,Tpが座り、右最奥にバロック・ティンパニが位置します。HrnとTpはナチュラル・タイプです。今回は、何人かのメンバーが客演に変わっていたようで、気づいたところでは第2ヴァイオリンのヤンネさん、チェロの小川さんに代わり、松村一郎さん、矢口里菜子さん、その他にフルートの星野すみれさん、パーカッションに石橋知佳さんが加わっての演奏です。
演奏は、大きな音量でダイナミックに描くと言うよりも、ナチュラル楽器の採用により、弱音とバランスの取れた音色を生かし、神経の行き届いた絵画のようなもの、と言えばよいでしょうか。

続いてヒンデミットの「クラリネット協奏曲」です。ヒンデミットといえば、ジョージ・セル指揮の「ウェーバーの主題による交響的変容」や、久良木夏海ファースト・チェロリサイタルで聴いた「無伴奏チェロソナタ」などを聴いたことはありますが、クラリネット協奏曲はもちろん初の生体験です。少しだけ YouTube で予習してはみたものの、一夜漬けではとてもとても把握しきれません。ここは、虚心に楽しむことといたします。
ちなみに楽器編成は、ステージ左から、1st-Vn(8),2nd-Vn(7),Vc(5),Vla(5)、右奥にCb(3)、正面に Picc(1),Fl(2),Ob(2)、その奥にクラリネット抜きのFg(2)、さらにその奥にHrn(2)とTp(2)、最奥部にTb(2)、左奥部にはバスドラムなどパーカッションとモダン・ティンパニが配置されている、というものです。
聴衆の大きな拍手の中を、クラリネット独奏の川上一道さんが登場、ポンマーさんの指揮でオーケストラの序奏が始まると、クラリネットがソロを吹き始めます。ダイナミックで、なかなかおもしろい。第2楽章のピッコロとクラリネットの低音の対比とか、ゆるやかな第3楽章でも、弦とクラリネットの、低音から高音に移行する際の音色の変化など、クラリネットの魅力をふんだんに聴かせる音楽のようです。終楽章は、軽やかな明るい音で始まります。ベニー・グッドマンのために書かれた曲らしく、ドイツ音楽の積み重ねとジャズの語法とをうまく融合させた音楽、といえばよいのでしょうか、川上さんのたぐいまれな技量とヒンデミットの音楽とを楽しみました。

休憩の後は、ベートーヴェンの交響曲第6番ヘ長調「田園」です。
楽器配置は、ティンパニが右奥のバロック・ティンパニに代わり、ホルン、トランペット等がナチュラルタイプに代わったくらいで、基本的には変わりありません。
第1楽章:意外なほど速めのテンポで始まります。ポンマーさんの年齢的なものもあり、もっとゆっくりとしたテンポを予想していましたが、これはびっくり。弦楽合奏は、やわらかい歌心を発揮するもので、ナチュラルホルン、トランペットがいい響きです。第2楽章:落ち着いたテンポで音量はあまり上げずに心を込めた歌が響き、幸福感に満たされます。第3楽章以降:木管に加えてホルンの立派な演奏、遠くで嵐の気配のあたりの緊張感、バロックティンパニの打撃は、振動が後まで残らないのが特徴で、実際の雷の音はこんな感じ(*1)です。ピッコロはここぞとばかり鋭い音を発し、嵐が遠ざかって弦が生活の歌を奏で始めます。刺激的な方向でなく、とくに弦楽合奏が、聴く者に幸福感を感じさせる演奏、という方向性でした。良かった~!



終演後、ファン交流会が開かれました。ヴァイオリンの今井東子さんが川上さんにインタビュー。協奏曲のソリストの川上さん、序曲にも交響曲にも出たことを、「正直、疲れました」。たしかに、普通ならありえない、若いスーパー川上さんだからできることかもしれませんが、少々人づかいが荒いかもしれません。今後、要改善かも(^o^)/



安達さんが通訳をしたポンマーさんも、山響の弦楽セクションを賞賛しながら、でも正直言って「弦楽奏者をもう少し増やして」と希望していました。このあたりも、音楽的な要素と経営的な要素のせめぎあいの場面なのだろうと思いますが、経営の建て直しが軌道に乗り、良い方向に向かってほしいものだと思います。新事務局体制に期待しているところです。

そうそう、ポンマーさんの話で興味深かったのが、ベートーヴェンとメトロノームの件。1950年代から60年代には、ベートーヴェンの速度表記は間違いで、ベートーヴェンのメトロノームは壊れていたのだろう、とされ、ごく遅い演奏が普通になっていたそうです。ポンマーさんは、ベートーヴェンのメトロノーム表記に基づいて演奏するほうを支持する立場だそうで、ベートーヴェンは耳が聞こえなくなりましたが、甥のカールがメトロノームの速度を読み取り、表記したのだそうな。今回の演奏のテンポは、なるほどと思いました。

(*1):現代の私たちも、天気予報で雷注意報は知っていても、つい時間を忘れて畑仕事に精を出し、突然の雷の音にビックリ仰天するということはありますからね~。

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