電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

R.シューマンの歌曲集「スペインの恋の歌」を聴く

2014年10月26日 06時02分06秒 | -オペラ・声楽
歌の秋に、通勤の音楽として、グラモフォンのR.シューマン「歌曲大全集」からDisc-8を取り上げ、繰り返し聴いております。とりわけ、円熟期の作品「スペインの恋の歌」が印象に残りました。

この作品は、本当はピアノ独奏曲を含み全部で10曲からなる歌曲集なのだそうで(*1)、「スペインの歌芝居」Op.74(*2)とは、姉妹関係にあたるらしい。作曲されたのは1849年で、シューマンは39歳、ドレスデンに住み、彼の唯一のオペラ「ゲノヴェーヴァ」を完成させて少し経った頃です。1850年には交響曲第3番「ライン」やチェロ協奏曲などが作曲されていますので、創作的にはたいへん充実した時期であろうと思います。しかし、病気のために精神の均衡が崩れる兆候が見えてきた時期であるとのこと。そういえば、デュッセルドルフに移住する時には、同地に精神病院があることを気にしたというエピソードもあり、内面に深刻な不安を抱えていたと思われます。

第1曲:ピアノ独奏曲 本CDには含まれません。
第2曲:わたしは心の奥深く苦しみを秘めている
 エディット・マティス(Sop)の歌と、ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ(Bar)の歌と、二種類の歌を収録しています。いずれも、心の奥深くに抑えた苦しみを歌うもので、深い悲哀と嘆きを感じさせる歌唱です。
第3曲:ああ、なんと愛らしい娘 フィッシャー=ディースカウによる活発な歌で、ピアノが活躍します。
第4曲:僕を花で覆ってほしい ペーター・シュライヤー(Ten)とフィッシャー=ディースカウ(Bar)。悲しみをこらえて、力強さのある男声二重唱です。もともとは女声二重唱らしいのですが、ここでは男声で歌っています。
第5曲:ロマンス フィッシャー=ディースカウ。ピアノがシンプルに伴奏するのが、かえって効果的です。
第6曲:ピアノ独奏曲 本CDでは省略されています。
第7曲:ああ、あんなにあの子が怒るとは ピアノが主導し、歌が答えるような、ごく短い曲。フィッシャー=ディースカウ。
第8曲:不明。本CDでは省略されています。
第9曲:青い瞳の娘 ペーター・シュライヤーとフィッシャー=ディースカウによる二重唱。ピアノが低音を響かせ、活躍します。
第10曲:四重唱。本CDでは省略されています。

シューマン生前には出版されなかった歌曲集。本CDでは男声二重唱となっていますが、歌詞の内容からみて、おそらく男声と女声の二重唱でスペインの恋の歌を描き、ピアノがロマンティックに歌い、四重唱で締めるような音楽を構想したのではないかと思います。同じガイベルによる歌詞で、どうして出版されなかったのか、前者に比べて劣るものとは思えませんが、理由は不明です。四人の歌い手と二人のピアニストを要する歌曲集というと、ちょいと売れそうにないというような商売上の判断があったのかもしれませんし、もしかして出版したくない、個人的な事情が含まれていたのでは、とさえ考えてしまいます。

例えば、第2曲の歌詞「ぼくは心の奥深くに苦痛を抑えて、外見は平静にしていなければならない」という嘆きは、病の進行と併せて考えたときには、切実なものでしょうし、第7曲の「あの子」をクララにあてはめて考えると、第4曲のように自分の死や死後のことを話そうとしたら、妻がたいへん怒った、というような場面を想像することは不自然ではないでしょう。

まあ、そんなことは素人音楽愛好家の勝手な想像でしかありませんが、この曲の後半にはピアノが活躍して歌も元気を取り戻すのをみると、ほっとする気持ちもあります。なかなか味のある歌曲集、ピアノ曲や四重唱を含めた完全な形で聴いてみたいものです。

(*1):シューマン「スペインの愛の歌」作品138 詞:ガイベル~梅丘歌曲会館更新情報
(*2):シューマンの歌曲集から「スペインの歌芝居」等を聴く~「電網郊外散歩道」2012年3月

YouTube より、第5曲「ロマンス」を。

Aksel Schiotz 1949 (Gerald Moore, piano) Geibel-Schumann Romanze: "Flutenreicher Ebro"


【追記】
YouTube で、全曲を演奏する動画を見つけました。素人ビデオ収録のようで、音の状態も充分ではありませんし、客席で移動する人影や奇声を発する聴衆など、あまりかんばしいものではありませんが、全曲のイメージはつかむことができます。ピアノ独奏曲が四手であったり、二重唱が女声であったりで、これがもともとの姿に忠実な演奏なのかもしれません。

Spanische Liebeslieder op. 138 by Robert Schumann


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