電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

畠中恵『ねこのばば』を読む

2008年07月02日 05時12分51秒 | 読書
畠中恵さんのシリーズ第3作、『ねこのばば』を読みました。全部で5本の作品が収録されています。

第1話、「茶巾たまご」。健康で食欲旺盛な若だんななんて、そんじょそこらにある時代物と同じじゃないか、たぶん、落ちではまた寝込むんでしょ、と読んでしまいました。お話は案の定でしたが、「○○レシピ百選」なんてのは、単身赴任むきに書いてあるのでしょうか(^o^)/
第2話、「花かんざし」。人の目には見えないはずの鳴家が見える迷子の少女於りん。少女を着せ替え人形のようにして可愛がる若だんなの両親。しかし、於りんは家に帰ると殺されると言います。病とはいえ、不幸な女性がドラマティックに描かれる物語です。
第3話、「ねこのばば」。猫嫌いの人にはたまらない話かも。寛朝さんという坊さんも、なかなかたいしたものです。なんとなく、江戸時代のゲオルク・ショルティを連想してしまいました。桃色の雲なんていうのがあれば、単身赴任の宿も、もう少しうるおいがあるのかもしれません。
第4話「産土」。「産土」は「うぶすな」と読むのだそうです。弘法大師が描いた1枚の野猪除けの絵から抜け出た犬神の放浪の物語です。若だんなというから、てっきり一太郎のことかと早合点してしまいました。作者の術中にはまったというべきでしょう。人形の腕が強いイメージとして残る、なかなかシュールな物語です。
第5話「たまやたまや」。甘やかされた子どもは放蕩息子になるのですか、そうなのですか。そうとは限らないのでは、などと思っていては物語りは始まりません。お春ちゃんの純情、一太郎の善良で思いやりのある気持ちが、美しいがどこかさびしい結末に託されます。

駕籠が来て、花嫁が乗り込んでゆく。栄吉や親、親戚達が付き添った。
周りから小さい子供の、甲高い声が聞こえている。一寸、空をゆく、虹色のしゃぼんを見た気がした。幼い日の己らのように、子らは婚礼の華やかさを、今目に焼き付けているのだろうか。
花嫁の列が進み始める。若だんなは一歩踏み出して、止まった。もう駕籠には、声も届かない。遠ざかってゆく後ろ姿はやがて、道の先に消えていった。

以上、新潮文庫版、p.311~2 より。印象的な終わり方です。
コメント