評価
(4点/5点満点)
元トリンプ・インターナショナル・ジャパン社長、現在は個人事務所で執筆・講演に活躍中の吉越浩一郎さんの最新刊は、CEO(Chief Executive Officer=最高経営責任者)的な働き方をして、仕事で結果を出すための本です。
つまり本書は、CEOのための本ではなく、社員だれもが「いつも経営者の目線を持つ」ことの重要性を説いています。
吉越さんは、日本的な社長と欧米的なCEOの決定的な違いは「現場からの距離」にあると言います。日本型の企業では、偉くなるにつれて現場からの距離が遠くなる。仕事で結果を出すための方法論まで、現場の部長や課長に「丸投げ」している感が否めない。達成すべき数字だけを与えて、あとは現場で頑張れ、という方式です。
すっかり有名となったトリンプの「早朝会議(デッドライン会議)」「完全ノー残業」「がんばるタイム」は、トップによる現場主義の最たるものです。
また、本書ではトリンプ以前の外資系の転職経験やトリンプを辞めた理由などが語られており、これまで吉越さんの本を数多く読んできた方にも、新たな発見がある1冊です。
【my pick-up】
◎Warm Heart,Cool Head-「仕事はゲーム」と割り切るメリット
いつか終わりが来るお金を稼ぐゲームに一生をかけてのめり込むのではなく、どこか冷めた視点を持っていたほうが得策なのだ。
◎人間は「性弱」、だからこそ自分を追い込め
多くの日本人は、残業が減らないのは「忙しさ」のせいだと思っているが、実は自分たちの「弱さ」がいちばんの原因だと私は思う。
◎なぜ日本の商社は「企業買収」ができないのか
日本の大企業では、いわゆる「調整型」の人間ばかりが育つ。社内の人間関係に角が立たないように根回しをしたり、対立する意見を巧みなレトリックでまとめて喧嘩両成敗的な「落としどころ」を提案するなど、一見、その仕事ぶりは「キレ者」のように思えなくもない。だから社内では高く評価され、出世もする。
しかし、それは経営者に求められる能力とはまったく別のものだ。状況を判断して行き先を指示するのが経営者の役割だ。ところが調整型の人間には、それをやるだけの決断力や実行力が備わっていない。
◎「部下は上司を選べない」現実と、どう向き合うか
どんなに気が合わない相手でも、仕事で結果を出しているかぎりは優秀な部下として評価せざるを得ない。自然と口出しが減り、部下が自分の判断で動ける範囲が大きくなる。
◎日本式「GNN(義理・人情・浪花節)」の功罪
日本はいわゆる「GNN(義理・人情・浪花節)」を重んじる空気があり、そこにはもちろん良い面もあるのだが、ことビジネスに関してはこれが無駄を生む元凶になることが少なくない。「仕事が終わっても上司が帰るまで帰れない」というのがその典型だ。
◎「Given Situation(与えられた状況)」を変える力が求められている
群れの中でもとりわけ協調性のある人(悪く言えば付和雷同型の人)がリーダーになったりするので、「自立した個」など望むべくもない。私が思うに、そういうリーダーに率いられる組織のいちばんの弱点は「Innovative(創造的)な動き」ができないことだ。
◎「結果」を出せば、部下はついてくる
「いい人」を演じて好かれようとするのは、自分の腕で結果を出すだけの自信がない証拠だ。
◎「全員参加の会議」で「情報」と「判断の基準」を共有すべし
会議を首脳陣だけでやったり、セクションごとに区切ってやっていると、いわゆる「伝言ゲーム」の失敗が起こりやすい。
◎ITシステムの正しい導入方法
水面下に隠れている「暗黙知」をどれだけマニュアル化・IT化できるか。「団塊の世代が退職したことで技術の伝承が途絶えた」という会社も多いようだが、これは経営者がいかに社内の仕組み作りをおろそかにしていたかという証拠ではないだろうか。
◎マネジャーは部下の仕事の「重要度」「緊急度」を修正する
社員は、「会社にとって重要度の高い」仕事よりも、「自分にとって緊急度の高い」仕事を優先したがる。しかし会社としては、「個人の緊急度」が低くても、「会社の重要度」の高い仕事を優先してもらわなければ、組織の効率は上がらない。したがって、優先順位を入れ替えさせるような「仕組み」が必要になる。
そもそも個人の緊急度が高く会社の重要度が低い業務というのは、単純作業であることが多い。それを簡単かつ短時間で片づけられる仕組みを作れば、優先順位を逆にできる。
◎「残業禁止」で非効率な働き方を炙り出す
残業を禁止すると、その能率の悪さが顕在化する。本人の能力の問題か、仕事のやり方が悪いか、社内のシステムに非効率な部分があるのか、そのいずれかだろう。
◎仕事の質を左右するのは「集中力」
がんばるタイムや残業禁止といった全社的な取り組みは、「根の深い問題」の解決と同様、社長のトップダウンでやらなければ絶対に実現しない。
◎財務三表で重要なのは、あくまでも「損益計算書」
会社を経営する上でもっとも重要なのは、「PL=損益計算書」である。会社にとっていちばん重要な「成長」を考えると、最後はPLのところに戻らざるを得ない。あくまでも社長は「損益計算書の責任者」になるべきであって、貸借対照表やキャッシュフロー計算書の「専門家」になる必要はないと私は思っている。
◎社内向け書類を「パワーポイント」で作る会社は要注意
レイヤーが多く、経営者が現場から離れてしまった会社には、一つわかりやすい目印がある。パワーポイントでこしらえた見栄えのいい書類が、社内を飛び交っていることだ。
◎デッドライン会議は「公正な人事評価」にも役立つ
「ホウレンソウ」は結果を出せない人間のOJT(On the Job Training)だと考えるべきだ。
◎経営という長丁場のレースを走りきるために「自己管理」せよ
私の場合、唯一の健康法は「よく寝る」ことだった。基本的には、どんなに忙しくても毎日最低8時間は寝る。だから取引先との会食があっても、2次会には絶対に行かなかった。体力を回復するには、「深夜12時までに何時間眠れるか」が勝負だ。