評価 (3点/5点満点)
スプリント種目の世界大会で、日本人として初めてメダルを獲得し、3度のオリンピックを経験した為末大さんが、自分を心や身体をつくるもの、勝利をもたらすものについて振り返り、自己理解の重要性、そこからパフォーマンスに繋げる方法を語ります。
・引退した選手のオリンピックへのかかわり方として最もわかりやすいのは強化コーチとして、あるいはメディアでの解説者として、というものである。私はできるだけ多くの選手のパフォーマンスの向上に直接かかわりたいと思ったので、この2つの選択肢ではなく、第三の道を選んだ。それは、自らの幼少期から引退までの全競技人生を通じて掴んだことを言語化するということだ。
・私は現役時代のほとんどの間、コーチをつけなかったので、ずっと自分の身体で実験をやってきたようなものだった。
・自分の競技人生を振り返って感じるのは、自分を知ることの重要さだ。自分を知れば知るほど、短所と思っていたものが、じつは長所と一体であることがわかってきた。また、私は短所と思っていたものが長所として活かされるような場所を選んで戦ってきた。
為末さん自身がどうやって試行錯誤をしたか。失敗したことや後悔していることも含めて正直に書いたと言います。
新型コロナウイルスの動きはコントロールできないものの最たるものです。となると、じつは選手はそれを気にすることはほとんどないということになります。結局、日々の練習を淡々とするということしか選手にはできないし、それこそがやるべきことなんだと思います。
【my pick-up】
◎日本の特徴
継続
継続とは我慢であり、執着でもあり、また決断ができないことでもある。日本人は、それまで続いてきたものを、これからも当たり前のように続けるという性質が強い。この性質が最大にプラスに働くのは、技術系競技だ。また、我慢が必要な長距離系にもプラスに働く。継続するということは、止められないということでもあり、計画し過ぎるということでもあり、変化できないということでもある。いま思いついたことをその場で試してみるということが苦手で、創造性が必要とされるような競技が苦手、思い切った決断などが苦手という印象がある。いざというときの1回で大きな力を出すことが不得意になる傾向にある。継続の力によって成長の段階で平均に寄せられてしまうからだと思う。
マニアック
大きく捉えて、要点を掴むことが苦手なので、シンプルな競技では後れをとっている。ざっくりと全体を捉えて思いっきり力を出す、という動きができない。細かいことにこだわり、ものごとを複雑にし過ぎてしまう。
集団情緒的
モチベーションの理由を外部においたほうが日本人は頑張れる傾向にあると思う。悪く出るのは意思決定の局面だ。データの正しさよりも、人の心情を察した意思決定を行う傾向にある。
私は日本人の特性が最大に活かされるのは、少人数の集団で、細かい技術や意思疎通を必要とし、競技自体に歴史があり、革新的な技術が生まれにくく、漸進的な改善が効くような場面だと考えている。陸上でいえばリレー競技がこれにあたる。
◎敗北後の整理について
敗北後の整理は、簡単に言えば以下の3段階にまとめられる。
1.振り返り:事実の把握
2.分析:課題設定
3.対策:具体的な今後の計画
スポーツにおいての学習とは、起きたできごとをどのように捉え直すかであり、それは徹底した事実の把握と、合理的な分析と、具体的かつ端的な対策で決まる。
◎目標設定
悪い目標の典型は、「今シーズンは絶対諦めないで走る」といったものだ。これは気持ちの表明でしかない。中学生程度であれば気持ちの表明でもいいが、このような達成されたのかどうかすら評価できない目標はトップを目指す選手には気分を高揚させる効果しかない。目標設定をよく観察していると2種類あることがわかる。1つは、ターゲットとしての目標、もう1つはそのぐらいの意気込みでやりますという願望としての目標だ。ターゲットとしての目標はそれを達成するために設定される。達成できるものを目標にしている以上、できない場合、必ず原因があるはずだと考えなければならない。ここで重要なのは仮にうまくいっても振り返り分析をしておくことだ。目標からずれたという点では、上振れも下振れも変わらない。一方、願望としての目標はほとんど達成されることがない。願望としての目標は達成できなかったとき、原因を探してみても、そもそもの目標が高過ぎたからということにしかならない。願望としての目標は現状から出発しておらずこうであったらいいなというものなので、自分のリソースについても敵についても乖離が大きい。私は日本的根性論とは、この願望の目標とターゲットとしての目標の違いがわからなくなり、空気とノリで戦略が決まってしまった状態から生まれると考えている。