宮島未奈 「成瀬は天下を取りにいく」読了
『島崎、私はこの夏を西武に捧げようと思う』という文章でこの本は始まる。2020年8月31日、滋賀県大津市で唯一の百貨店大津西武が閉店した。
主人公の成瀬あかりはその時中学二年生、コロナ禍でもできる挑戦をしたかったということと、ある目的を持って8月に入ってから閉店まで毎日大津西武から生中継されるローカル局の番組に映ろうと考えているというのである。
どうして僕がこの本を読もうと思ったのかというと、一緒に働いている同僚がまさにこの時、ここで働いていたのである。営業推進の仕事をしていたということなので当然中継にも立ち会っているはずである。だからこの小説世界が多世界理論上の平行世界であったとしたら、成瀬あかりのすぐそばにいて、同じ時間を共有していたのである。フィクション、ノンフィクション、よくわからない本、様々読んできたが、僕の知っている人が歴史上のその場所にいたという場面を読むということはまずないと思う。だからこれは絶対に読まねばと思ったのである。ちなみに、こういったローカル局の中継はまったくなかったそうである。
大津西武について書いておくと、開店は1976年6月18日。建物の設計は菊竹清訓という有名な建築家で、非常階段の折り返し部分のデザインとそれに続くテラスが特徴的だったそうだ。この本の裏表紙にもこの建物の絵が描かれている。西武グループ創業者の堤康次郎が滋賀県出身だというので西武としては相当な思い入れがあったそうだ。
6階と7階をつなぐ吹き抜けは琵琶湖の形をしていて、開店当時はここにピラミッドの形をしたバードパラダイスというケージがあって鳥が放し飼いにされていたという。下の画像の左端に少しだけ写っているのがその骨格だ。
なんとも昭和の百貨店という豪華さだったのである。
主人公の成瀬あかりはクラスではちょっと浮いた存在である。勉強はよくできるがすべてにおいてマイペースで独特な行動をすることから周りからはちょっと変な女生徒と思われていたのである。天才シャボン玉少女になってみたり、M-1グランプリに挑戦してみたり、200歳まで生きると言ってみたり、はては大津に百貨店を建てると言い始める。続く短編の中では丸坊主になったりもする。そして、期末テストで500点を取ると宣言し490点を取ってしまったりもする。『大きなことを百個言って、ひとつでも叶えたら、「あの人すごい」になる』というのが成瀬あかりの考えだ。
ストーリーテラーであり成瀬あかりの幼なじみでもある島崎みゆきはいつの間にか成瀬あかりの不思議な行動に巻き込まれていってしまう。ちょっと引きながらも「成瀬あかり史」作りに協力してしまうのである。
そしてそれをまんざら迷惑とも思っていないらしくそういったことを通して自身も成長してゆくのである。
物語はこの「ありがとう大津西武」のほか5編、合計6編の短編で構成されている。大津西武の閉店に絡む物語は2編。そのほかは大津西武の閉店後、成長してゆく成瀬あかりが描かれている。
閉店に思いを寄せるもうひとつの1編は、この百貨店を庭のようにして遊んでいたかつての小学生たちだ。40歳を過ぎてから大津西武の閉店に向き合う。それはある年の暮れ、突然転校してしまった友人への思いだった。仲のよかった彼はどうして突然自分たちの前から姿を消すことになったのか。閉店を知り立ち寄った大津西武で偶然出会った友人たちとの会話を機に同窓会を開こうと考える。それには突然別れた友人にもう一度会いたいという思いでもあった。そしてそれは大津西武の最後の日に叶えられる。この2編は登場人物もまったく異なるのだが、うまい具合に絡み合う工夫が仕込まれている。
そして、最後の一編では、成績優秀、マイペースで泰然自若という気持ちでそれまでの人生を生きてきたと思っていた成瀬あかりは、島崎みゆきが東京に引っ越すということを知ったとき、実は彼女に支えられながら生きてきたということに気付かされるのである。
多分、著者の大津西武への思いはこの2編で完結するほどの仕上がりだと思うが、もうひとつ、著者はきっと自分の分身である成瀬あかりと島崎みゆきのその後の成長を見届けたかったのだろう。それも見事に昇華されていると思う。
著者の来歴を見ると、静岡市出身で、夫の仕事の都合で大津市に住むようになったということ、出身は京都大学という秀才だ。自身の持つ2面をふたりの人物として描いたのだと思う。著者は自分の娘を見守るように書いたと言っているが、僕は絶対に分身として書いていると思うのだ。
集英社の「第196回コバルト短編小説新人賞」を獲得したデビュー作「二位の君」の主人公も成瀬あかりに似ている。著者のインタビュー記事などを読んでみると、確かに成瀬あかりに似ているところがあるのでこのキャラクターへの相当強い思い入れがうかがわれる。ご本人も武士の話しことばのようなしゃべり方をするのだろうか・・。
百貨店というと、売り上げ減による相次ぐ閉店と百貨店らしくない業態転換で世間ではすでに社会からの支持は得られていないように思えるが、僕も含めてそれなりに歳を取っているような人たちの子供時代の百貨店の思い出というのは夢のような場所だったのではないだろうか。僕はそういった思い出からこの業界に就職したわけではないけれども・・。
著者は現在40歳だから百貨店のピークの時代を知らない世代だろう。大津西武に思い入れがあったというよりも、大津の人たちの総体として大津西武の存在の大きさを直感的に感じたのだと思う。
大体がそうだが、どの地方でも、百貨店が閉店するというと、そこの人たちは残念だと大騒ぎするのだが、そういう人に限って年に1回も百貨店に足を運ばない。だから閉店をするのだ・・。
しかし、著者はそういった微妙というかどこかちぐはぐな市民の思いをうまく小説の中に取り込んでいるようにも思う。
成瀬あかりという主人公は、以前に読んだ「少年時代 飛行機雲はるか」に登場する少年たちのようでもある。人生の目標としてはまったく的外れなことに一時の情熱を傾ける。例えば、チャンバラの腕を上げることであったり友人同士で妙な誓いを立てたりというようなことだ。僕らの世代では仮面ライダーの変身ポーズを一所懸命に練習していたのと同じなのかもしれない。
僕は当時から醒めた人間で、そういう情熱をまったく持っていなかった。むしろそういう情熱は恥ずかしいものだと思っていたところがある。
この本はどんな世代の人が読む機会が多いのかは知らないが、ひと通り人生の手続きが終わってしまった僕のような世代の人間が読むと、眩しくて仕方がないと思ってしまうのである。
例によって今回もAIにあらすじを作ってもらった。
『宮島未奈の「成瀬は天下を取りにいく」は、2023年に新潮社から刊行された青春小説です。第20回R-18文学賞大賞・読者賞・友近賞を受賞した「ありがとう西武大津店」を含む五編の連作で構成されています。以下に収録されている短編ごとにあらすじをまとめます。
●『ありがとう西武大津店』:中2の夏休みの始まりに、幼馴染の島崎みゆきに「私はこの夏を西武に捧げようと思う」と言い出す成瀬。コロナ禍で閉店を控える西武大津店に毎日通い、ローカル局の中継に映ろうとする 。
●『膳所からきました』:夏休みが明けると、今度は「私はお笑いの頂点を目指そうと思う」と言い出す成瀬。島崎と一緒にM-1グランプリに出場することになるが、そのコンビ名は「ゼゼカラ」というものだった 。
●『階段は走らない』:高校生になった成瀬は、自分の将来の夢を実現するために、実験的に坊主頭にする。その姿を見た島崎は驚くが、成瀬は自分の信念を貫く。
●『レッツゴーミシガン』:競技カルタ部に入部した成瀬は、大会で他校の男子生徒・松本から声をかけられる。松本は成瀬に惹かれており、琵琶湖の観光船ミシガンでデートすることになるが。
●『線がつながる』:高校卒業前の成瀬と島崎は、「ゼゼカラ」として地元で活躍していた。しかし、二人は進路で離れ離れになることを知り、最後の漫才をすることになる。
●『ときめき江州音頭』:大学生になった成瀬は、東京で一人暮らしをしながら漫才を続けていた。しかし、ある日、島崎から連絡が来て、久しぶりに会うことになる。』
う~ん、今回はあんまり上手くできていないように思う・・。
とりあえずそのまま貼り付けたが、当たっているのは2作目までで、それ以外は間違っていた。いまのところのAIの限界が見える。
しかし、それよりも、聞き方を変えるとAIが自分でまったく別のあらすじを創作し始めたのには驚いた。こんな物語を創ってくれた。
『成瀬は、幼い頃から武士になることを夢見ていた少年です。しかし、彼は貧しい農家の出身で、身分の高い者との交流は禁じられていました。ある日、成瀬は偶然、将軍家の娘・菊姫と出会います。彼女は成瀬の剣の腕前に感心し、友達になりたいと言います。成瀬も菊姫に惹かれますが、身分違いの恋は許されません。二人は秘密裏に会い続けますが、やがてそれが発覚してしまいます。成瀬は菊姫を守るために、将軍家に挑戦することを決意します。彼は仲間たちと共に、天下を取りにいく旅に出ます。果たして、成瀬は菊姫と結ばれることができるのでしょうか?そして、彼は天下を取ることができるのでしょうか?この物語は、愛と冒険と友情に満ちた、壮大な歴史ロマンです。』
いまのところでもAIはすごい・・。
『島崎、私はこの夏を西武に捧げようと思う』という文章でこの本は始まる。2020年8月31日、滋賀県大津市で唯一の百貨店大津西武が閉店した。
主人公の成瀬あかりはその時中学二年生、コロナ禍でもできる挑戦をしたかったということと、ある目的を持って8月に入ってから閉店まで毎日大津西武から生中継されるローカル局の番組に映ろうと考えているというのである。
どうして僕がこの本を読もうと思ったのかというと、一緒に働いている同僚がまさにこの時、ここで働いていたのである。営業推進の仕事をしていたということなので当然中継にも立ち会っているはずである。だからこの小説世界が多世界理論上の平行世界であったとしたら、成瀬あかりのすぐそばにいて、同じ時間を共有していたのである。フィクション、ノンフィクション、よくわからない本、様々読んできたが、僕の知っている人が歴史上のその場所にいたという場面を読むということはまずないと思う。だからこれは絶対に読まねばと思ったのである。ちなみに、こういったローカル局の中継はまったくなかったそうである。
大津西武について書いておくと、開店は1976年6月18日。建物の設計は菊竹清訓という有名な建築家で、非常階段の折り返し部分のデザインとそれに続くテラスが特徴的だったそうだ。この本の裏表紙にもこの建物の絵が描かれている。西武グループ創業者の堤康次郎が滋賀県出身だというので西武としては相当な思い入れがあったそうだ。
6階と7階をつなぐ吹き抜けは琵琶湖の形をしていて、開店当時はここにピラミッドの形をしたバードパラダイスというケージがあって鳥が放し飼いにされていたという。下の画像の左端に少しだけ写っているのがその骨格だ。
なんとも昭和の百貨店という豪華さだったのである。
主人公の成瀬あかりはクラスではちょっと浮いた存在である。勉強はよくできるがすべてにおいてマイペースで独特な行動をすることから周りからはちょっと変な女生徒と思われていたのである。天才シャボン玉少女になってみたり、M-1グランプリに挑戦してみたり、200歳まで生きると言ってみたり、はては大津に百貨店を建てると言い始める。続く短編の中では丸坊主になったりもする。そして、期末テストで500点を取ると宣言し490点を取ってしまったりもする。『大きなことを百個言って、ひとつでも叶えたら、「あの人すごい」になる』というのが成瀬あかりの考えだ。
ストーリーテラーであり成瀬あかりの幼なじみでもある島崎みゆきはいつの間にか成瀬あかりの不思議な行動に巻き込まれていってしまう。ちょっと引きながらも「成瀬あかり史」作りに協力してしまうのである。
そしてそれをまんざら迷惑とも思っていないらしくそういったことを通して自身も成長してゆくのである。
物語はこの「ありがとう大津西武」のほか5編、合計6編の短編で構成されている。大津西武の閉店に絡む物語は2編。そのほかは大津西武の閉店後、成長してゆく成瀬あかりが描かれている。
閉店に思いを寄せるもうひとつの1編は、この百貨店を庭のようにして遊んでいたかつての小学生たちだ。40歳を過ぎてから大津西武の閉店に向き合う。それはある年の暮れ、突然転校してしまった友人への思いだった。仲のよかった彼はどうして突然自分たちの前から姿を消すことになったのか。閉店を知り立ち寄った大津西武で偶然出会った友人たちとの会話を機に同窓会を開こうと考える。それには突然別れた友人にもう一度会いたいという思いでもあった。そしてそれは大津西武の最後の日に叶えられる。この2編は登場人物もまったく異なるのだが、うまい具合に絡み合う工夫が仕込まれている。
そして、最後の一編では、成績優秀、マイペースで泰然自若という気持ちでそれまでの人生を生きてきたと思っていた成瀬あかりは、島崎みゆきが東京に引っ越すということを知ったとき、実は彼女に支えられながら生きてきたということに気付かされるのである。
多分、著者の大津西武への思いはこの2編で完結するほどの仕上がりだと思うが、もうひとつ、著者はきっと自分の分身である成瀬あかりと島崎みゆきのその後の成長を見届けたかったのだろう。それも見事に昇華されていると思う。
著者の来歴を見ると、静岡市出身で、夫の仕事の都合で大津市に住むようになったということ、出身は京都大学という秀才だ。自身の持つ2面をふたりの人物として描いたのだと思う。著者は自分の娘を見守るように書いたと言っているが、僕は絶対に分身として書いていると思うのだ。
集英社の「第196回コバルト短編小説新人賞」を獲得したデビュー作「二位の君」の主人公も成瀬あかりに似ている。著者のインタビュー記事などを読んでみると、確かに成瀬あかりに似ているところがあるのでこのキャラクターへの相当強い思い入れがうかがわれる。ご本人も武士の話しことばのようなしゃべり方をするのだろうか・・。
百貨店というと、売り上げ減による相次ぐ閉店と百貨店らしくない業態転換で世間ではすでに社会からの支持は得られていないように思えるが、僕も含めてそれなりに歳を取っているような人たちの子供時代の百貨店の思い出というのは夢のような場所だったのではないだろうか。僕はそういった思い出からこの業界に就職したわけではないけれども・・。
著者は現在40歳だから百貨店のピークの時代を知らない世代だろう。大津西武に思い入れがあったというよりも、大津の人たちの総体として大津西武の存在の大きさを直感的に感じたのだと思う。
大体がそうだが、どの地方でも、百貨店が閉店するというと、そこの人たちは残念だと大騒ぎするのだが、そういう人に限って年に1回も百貨店に足を運ばない。だから閉店をするのだ・・。
しかし、著者はそういった微妙というかどこかちぐはぐな市民の思いをうまく小説の中に取り込んでいるようにも思う。
成瀬あかりという主人公は、以前に読んだ「少年時代 飛行機雲はるか」に登場する少年たちのようでもある。人生の目標としてはまったく的外れなことに一時の情熱を傾ける。例えば、チャンバラの腕を上げることであったり友人同士で妙な誓いを立てたりというようなことだ。僕らの世代では仮面ライダーの変身ポーズを一所懸命に練習していたのと同じなのかもしれない。
僕は当時から醒めた人間で、そういう情熱をまったく持っていなかった。むしろそういう情熱は恥ずかしいものだと思っていたところがある。
この本はどんな世代の人が読む機会が多いのかは知らないが、ひと通り人生の手続きが終わってしまった僕のような世代の人間が読むと、眩しくて仕方がないと思ってしまうのである。
例によって今回もAIにあらすじを作ってもらった。
『宮島未奈の「成瀬は天下を取りにいく」は、2023年に新潮社から刊行された青春小説です。第20回R-18文学賞大賞・読者賞・友近賞を受賞した「ありがとう西武大津店」を含む五編の連作で構成されています。以下に収録されている短編ごとにあらすじをまとめます。
●『ありがとう西武大津店』:中2の夏休みの始まりに、幼馴染の島崎みゆきに「私はこの夏を西武に捧げようと思う」と言い出す成瀬。コロナ禍で閉店を控える西武大津店に毎日通い、ローカル局の中継に映ろうとする 。
●『膳所からきました』:夏休みが明けると、今度は「私はお笑いの頂点を目指そうと思う」と言い出す成瀬。島崎と一緒にM-1グランプリに出場することになるが、そのコンビ名は「ゼゼカラ」というものだった 。
●『階段は走らない』:高校生になった成瀬は、自分の将来の夢を実現するために、実験的に坊主頭にする。その姿を見た島崎は驚くが、成瀬は自分の信念を貫く。
●『レッツゴーミシガン』:競技カルタ部に入部した成瀬は、大会で他校の男子生徒・松本から声をかけられる。松本は成瀬に惹かれており、琵琶湖の観光船ミシガンでデートすることになるが。
●『線がつながる』:高校卒業前の成瀬と島崎は、「ゼゼカラ」として地元で活躍していた。しかし、二人は進路で離れ離れになることを知り、最後の漫才をすることになる。
●『ときめき江州音頭』:大学生になった成瀬は、東京で一人暮らしをしながら漫才を続けていた。しかし、ある日、島崎から連絡が来て、久しぶりに会うことになる。』
う~ん、今回はあんまり上手くできていないように思う・・。
とりあえずそのまま貼り付けたが、当たっているのは2作目までで、それ以外は間違っていた。いまのところのAIの限界が見える。
しかし、それよりも、聞き方を変えるとAIが自分でまったく別のあらすじを創作し始めたのには驚いた。こんな物語を創ってくれた。
『成瀬は、幼い頃から武士になることを夢見ていた少年です。しかし、彼は貧しい農家の出身で、身分の高い者との交流は禁じられていました。ある日、成瀬は偶然、将軍家の娘・菊姫と出会います。彼女は成瀬の剣の腕前に感心し、友達になりたいと言います。成瀬も菊姫に惹かれますが、身分違いの恋は許されません。二人は秘密裏に会い続けますが、やがてそれが発覚してしまいます。成瀬は菊姫を守るために、将軍家に挑戦することを決意します。彼は仲間たちと共に、天下を取りにいく旅に出ます。果たして、成瀬は菊姫と結ばれることができるのでしょうか?そして、彼は天下を取ることができるのでしょうか?この物語は、愛と冒険と友情に満ちた、壮大な歴史ロマンです。』
いまのところでもAIはすごい・・。