鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

カンが鈍った沢木耕太郎

2006-01-19 | Weblog
 アカデミー賞有力とのキャッチフレーズの映画「スタンドアップ」を観賞した。主演が「モンスター」で20キログラム増量して熱演し、アカデミー主演女優賞をもらったシャリーズ・セロンであったのも魅力に感じて、封切り初日に足を運んだ。雨のなかにもかかわらずまあまあの入りだった。映画が始まって、タイトルの原題をみると、「NORTH COUTRY」(北の国)、しかも実話に基づく話である、となっている、どうしてスタンドアップなのかなと思いながら画面に見入った。1950年代の頃か、ストーリイは米国北部に子連れの女性が夫と喧嘩別れして、故郷の炭鉱の街に帰ってくるところから始まる。
 当時は圧倒的に炭鉱は男性の職場で、生活のため炭鉱で働く主人公は父親の炭坑夫を含め排斥され、様々ないじめに会う。仲間の女性も一緒にセクハラめいた言動を受け、簡易トイレの中に入って丸ごと倒されるとか、ベルトコンベアーの急な動きに巻き込まれそうになったり、最後にはレイプに襲われ、遂に会社を男女差別、およびレイプ被害で訴えるに至る。しかし、仲間の女性も同調してくれなくて、裁判でも検察側から少女時代に受けたレイプ事件を持ち出され、実は女性から誘ったもので、レイプではない、と当時のボーイフレンドが証言台に立ち、敗訴しかかる。
 ところが、父親があまりにも強権的として母親からも見放され、家を出ていってしまったことから、組合の大会で「君らも娘がそんな目にあったらどんな気持ちになるのか」と娘の提訴に対する同意を訴えることから流れは変わる。証言台に座ったかつてのボーイフレンドに対し、弁護士は「君はその時なぜ、彼女を助けようとしなかったのか」とホッケーでの試合での闘志を出すことを例に激しく詰め寄り、遂にそのボーイフレンドは当初の「合意」との言を翻し、「レイプだった」との発言を引き出す。その瞬間、主人公の親友でいまや半身不随の女性が椅子席を金具で叩き、それを夫が代弁して、「妻は原告に同意します」と立ち上がる。スタンドアップという表現をして。すると、傍聴席にいた女性の同僚が次ぎ次ぎと立ち上がり、最後は男性の同僚も立ち上がる、感動的なシーンであり、胸にジーンときた。
 スタンドアップという言葉は感動的な場面の数分前に弁護士がボーイフレンドに対し、ホッケーの試合で試合を諦めずに戦うしせいを継続していく姿勢を表して、スタンドアップという。ああ、タイトルに引用したのはこれだな、と思わせていた。
 で、主人公は裁判に勝ち、会社側は職場での男女差別の是正を迫られ、この裁判は全米の男女差別撤廃の先駆けとなった、とテロップで流れ、映画は終わる。アカデミー賞を受賞するか、どうかはわからないが、米国人はこういう単純なストーリーは好きだから、案外受賞するのかもしれない。
 16日の朝日新聞夕刊で沢木耕太郎がいい映画だ、と誉めていた。確かに感動的でいい映画ではあるが、裁判の場面で逆転勝訴するくだりで、ただ、ボーイフレンドの証言がひっくり返ったことだけで、同僚がスタンドアップするのはやや無理がある。もう1つか、2つそこに至る材料が欲しいところだ。それと、やはり、表題をスタンドアップとしたことを誉めるべきだ。沢木耕太郎は肝心のそこをついていない。単に「北の国」のタイトルでは感動を呼ばないだろう。映画興行面で、どういうタイトルをつけるかは重要なことであるはずだ。長年、映画批評に携わってきた沢木耕太郎はカンが鈍ったとしか思えない。朝日新聞もいい加減に沢木耕太郎を使うことは考えた方がいいのではなかろうか。

 
コメント (1)
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