16日は東京・霞が関の東京地裁へ裁判の傍聴に出かけた。丁度104号法廷で河井克行前法相の公職選挙法違反裁判の傍聴人の閉め切りが迫っていたので、傍聴券をもらうべく並ぶと結局応募者9人全員が傍聴券を手にした。河井被告は先日釈放となって、裁判の行方に関心が薄れたのだろうと思って、開廷の10時前に荷物検査を終え法廷に入ると、被告は元通りのふっくらとした体形に戻っていた。時間通り10時に開廷すると、元科学技術庁の官房長だった80歳の男性が証言席に着き、被告側の代理人の質問に答えていく。どうやら、被告が政治の世界に足を踏み入れ、科学技術の分野に人脈を築いていくうえで、水先案内人に役目を負った人物のようで、被告の人となりを順次語り始めた。
証言によると、河井被告は科学技術分野、外交の分野で他の政治家が行わないような業績を挙げ、科学技術分野では日本の科学技術の水準を上げるあまたの成果をあげ、外交面では世界各国を渡り歩き、数々の人脈を築き安倍外交を裏で支えてきたとほめちぎった。被告の妻である安里氏のことを聞かれ、科学技術庁の職員だった安里氏を紹介し、結婚式にも参列した、とも語った。聞いていて、100人以上の議員に対し選挙に協力するように買収資金をばらまいた人物である被告が一方ではこんないいことをしていたのだ、と聞くのはどう考えても違和感の湧く気持ちとなった。傍聴席の左側に座っている記者席を見ると、これも裁判のよくある一幕とでも思わせるのか、必至でメモを取る姿が散見された。
反対尋問に移り、検事が「いま話された外交の話はどういう形で見聞したのか」と問われると、証人は「送られてくる「『月刊河井克行』や新聞などで知りました」と答えた。続いて検事が「その被告がどんな罪を犯してこの場にいるのかご存知ですか」と聞いたら、「選挙違反と聞いています」と答えたので、検事がその詳細を語ろうとすると、被告側の弁護士が異議を唱え、裁判官がその通りだとして、検事はその件は抑えた。検事はさらに「被告とは最近会いましたか」と尋ねると、保釈後に弁護士とともに証人のもとを訪れた、という。
つまり、証人のもとを訪れた被告に同席した弁護士がやりとりを聞いていて、被告側の証人として使えるとでも判断し、この場に登場させたのだろうが、自民党本部から1億5000万円もの資金供与を受けて100人以上の市長、議員にばらまき投票を依頼した事実の前に一体どれほどの効果があるものなのか、疑わしい。明々白々の罪の前にはあまり効果はないことだろう。証人尋問を聞いていたマスク姿の河井被告はマスクの下で感激のあまりか、涙ぐんで嗚咽していたとも伝えられているが、目の前10メートルくらいにいたのにそれには気ずかなかった。
今裁判は来週23日から被告への尋問が始まることになっている。同じく公職選挙法違反に問われた被告の妻の安里氏はすでに有罪の判決を受け、政治の世界からは追放された感じとなっている。それより主犯の被告が妻より軽く済むはずがない、とだれしも思っていることだろう。法務大臣まで歴任している被告がこんな茶番劇を仕組むとはあまりにも醜い見え見えの茶番幕である。これも裁判のうちとでもいうのだろうか、お涙頂戴、かつコロナ下の春の一幕としてはとんだ悲喜劇であった。