日本経済新聞社が英国の有力経済紙、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを8億4400万ポンド(約1600億円)で買収することが本決まりとなった。23日に日本経済新聞社の喜多恒雄会長と岡田直敏社長が記者会見して、「日経はデジタルとグローバルを軸に成長していく」戦略を語ったただ、記者会見の内容を聞いていてもどうして1600億円もの大金を投じてFTを手中に収める必要があるのかはっきりとしなかった。単に電子メディアで協調するのなら、もっと簡便な手法があったのにと思われた。斜陽産業である新聞社の買収にかくも多額な金額を投じるのはどう考えても危険な賭けとしか思えない。
23日付けの夕刊フジは「日経の大バクチ」と見出しをつけたが。まさに賭けである。FTは紙の読者23万、電子版50万で合わせた読者数はわずかに73万に過ぎない。買収金額で読者数を割ると1部当たり22万円にもなる。日経が魅力を感じている電子版の読者数50万人に日経の有料電子版の読者数43万人を合わせると93万人となり、世界トップになるとしているが、あくまでも新聞業界に限っての話で、ネット業界からみればちょっとした規模としかいえず、とても世界一などとは言えない。
日経がFTの電子メディアに興味があるのだとすれば、買収するのではなく、もっと効果的な提携の仕方があったのにと思われる。それに英語と日本語の電子版をどうやって統合していくのか、という問題も残る。23日の記者会見の席上では記者からの質問に答えて「FTの編集人事、内容については日経は介入しない」{岡田社長)と言明したが、編集権を尊重しているのはわかるが、ならばなぜ買収にまで及んだのか、という疑問が湧いてくる。
それに買収に際しては直前までドイツのアクセル・シュプリンガー社が先行していて、FTの株式を所有している親会社のピアソンが日経への売却を発表する7分前になって、日経が破格の買収金額を提示して、それにピアソンが同意した、と伝えられている。ピアソン側と日経は2回程度話し合いしたようであるが、買収金額について妥当であるか、FTの財務内容に応じて詰められた形跡はない。しかも日経は買収にあたって第3者にようるFTの財務内容のチェックうを受けたのかも定かではない。
23日の記者会見で専ら記者の質問に回答していたのは岡田社長で、買収を決めた当事者であると思われる喜多会長はあまり発言はしなかった。ことし3月に社長に就任したばかりの岡田社長は喜多会長の言うがままにFTの買収劇に賛同したようで、必死にその後処理に苦心惨憺しているようにうかがえた。
翻って、年間売上高の過半になものぼる多額な買収劇を決めたのだろうか。喜多社長は7年間にわたって社長の座にあり、この春に岡田社長にバトンタッチしたものの、実権は握ったままだった。過去7年間は経費節減にあい務め、一応は無難な数字的な業績は残してきたものの、特筆すべき業積をあげるには至らなかった。なかであげるとすれば、わずかに電子メディアで有料の会員が43万人に達したことことくらいである。それも売り上げ金額的には50億円前後で、全体の2%弱を占めるにしかならない。採算的にはとても合っているとは言い難く、とても今後の基盤を築いたともい言えない。喜多会長はこれをなんとかしたい、と思っていたのだろう。そこで、たまたま巡り合ったFT買収ということを考え付いたのだろう。
ただ、それがコストパーフォーマンスに合ったものであるのかどうか、という検討を重ねるには至らなったようだ。増して第3者の声を聞くことも¥せずに一挙に走ってしまったようだ。電子メディアをなんとかとの思いはあせりを生んだようだ。このことがどんな結果をもたらすか、神のみぞ知るところだろうが、長らく日経を愛読してきた鈍想愚感子とすれば、まもなく創立140周年を迎える日本経済新聞社にとって禍根を残すこととならないことを祈るのみである。